一 


酒に弱いとか、そういう話を聞いたことはなかったと思う。
実際、幾度か酒を飲んでいるのを見たことがあるが、弱そうには見えなかった。

だから、あいつがああなったのには少なからず驚いた。
疲れた身体に酒を入れたのが原因だと分かっているし、それがあまり褒められた状態でないのも知っている。

だが、初めて見せたその姿を嬉しいと感じるのは、止められそうにない。



菖蒲酒





端午の節句と言えば、幕府の重要な式日だ。
大名や旗本は将軍にお祝いを奉じ、将軍家では男の子の誕生を祝うという。

古く奈良の時代から続くというその催しは、今では町人の間にも浸透してきているらしい。
家の前に幟や吹き流しを立てて、粽や柏餅を食べて菖蒲湯に入る。
節句にちなんだ行事も、寺社で行われるようになっている。


そんな訳だから京の街も朝から賑やかで、それに比例して新選組も忙しくしていた。
人が増えれば無法者も増えてしまうのが世の常だ。
京の守護を任されている身となっては、こんな日に祝い事を楽しんでいる場合ではなかった。



「土方さーん。」

夕暮れが近づいた頃、間の抜けた声を上げつつ帰宅したのは総司率いる一番隊だ。

「上賀茂神社のお祭り、終わりましたよー。」
「祭りじゃなくて競馬だ。・・・問題はなかったか?」
「ちょっとした喧嘩とか、あってもそんなもんですよ。」

報告にと俺の部屋にやってきたのだろうが、口調は随分とだらけている。
一番でかい催しの見回りを隊一つで任されたのだから、その疲れも仕方ないだろうが。

「ならいい。ご苦労だった。」
「ほんとご苦労ですって。折角の端午なのに。」
「そう言うな。お役目なんだからしょうがねぇだろうが。」

僕もお祝いしたかったーなどと言う総司に、仕方ねぇやつだと苦笑が零れた。

「広間で千鶴が菖蒲酒を用意してる。粽とかもあるらしい。」
「え?ほんとですか?」
「近藤さんが買って来たんだ。大方お前らを労ろうってところだろう。」
「さっすが近藤さん。どっかの副長と違って気が利くなぁ。」
「うるせぇぞ、総司!とっとと行ってこい!」
「はぁーい。」

一言も二言も多い総司を部屋から追い出して、報告されたことを手早く走り書く。

「一番隊も異常なし、か。あとはあいつだけだが、どうやら何事も無く終われそうだな。」

そんなことを呟きつつ、書きかけの書簡に筆を下ろす。
一番やっかいな任務を任せてあるあいつが戻るのは遅くなるだろうから、書き上げる時間はまだたっぷりあった。




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