4.チークで頬を染めて (原田/現パロ)

ねぇ、左之。あなたは私のことホントに好きですか?

そう聞けたらどれほど楽になれるだろう。
桜は横目で想い人を盗み見てそっと溜め息をついた。
教師は職場結婚が多いらしい―――今はそんなウワサも気休めにならないの。



今時の女子高生は、背が高くて、大人っぽくて、オシャレで、そして恋愛にも積極的らしい。
教師にしておくには惜しい、いやもういっそのことホストにでも転職したほうがよろしいような色気を放つ左之に群がる彼女たち。
その手には可愛らしいお弁当箱―――きっと中身は海苔で顔を作ったお握りや、たこさんの形をしたウインナー、星や花の形に切られた煮つけなど、手の込んだもの。
毎日見ていれば慣れてくるもので、嫉妬も何のその、もはや何も思わない。
人の慣れって、素晴らしいものなのね。


「やっぱり若いって、いいわねぇ」

「どうしたの?左之さん?」

私の呟きにいち早く反応を示した同期の総司。
兄さん、絶対に楽しんでるでしょう、目がキラキラしてますわよ?

「ん、まぁね。私もあんな若い頃があったのね。今はもう面影もないけどさ」

何がってうまく分からないけれど、若いってそれだけで利点よね。

「僕は桜ちゃんのほうがいいけどね。あの子たち色気に欠けるもん」

「こらこら、生徒にそれ言ったら総司、あんた殺されるよ?怒り狂った彼女たちに」

左之同様、容姿の整った総司を好きな生徒も多いわけで………あぁ、ガラスのハートの失恋者が押し掛けるわ、保健室に。
頑張って?山南先生。

「殺される前に君と一緒に逃げるから大丈夫。沖田桜になれば、僕の身も安全でしょう?」

「………46点。まだまだね」

ちぇ〜悔しいな、と全く悔しくなさそうな総司が授業に行くのを見送った。




今職員室にいるのは5限に授業のない教師―――つまり私と左之だけなわけで。
シーンとした部屋に響くのは、お互いがテストの採点をする赤ペンがこすれる音だけ。

沖田桜………結婚かぁ。
左之も私も、そういう話を出したことがなく、彼が何を考えているのか分からない。
そもそもあれほど女子生徒からモテる左之が、私と結婚?
うわ、想像できないわ。
と言いつつも、私も結婚適齢期から少しずつ遠ざかっていくわけで、そろそろ真剣に考えなきゃいけないわけで。
左之が遊びで私と付き合ってるとは思わないけど、何も言ってくれないと不安なの。


「…………桜」

考えに耽っていると、いつの間にか後ろに左之が立っていて、私のデスクに
両手をついている。
つまり、その、私を抱きしめているような格好なわけで、その、背中に彼の体温をまざまざと感じるわけで。

「ちょ、ここ、学校だよ?」

今まで職場でこんなことになったことのない私はしどろもどろ。
そんな私に対して、「知ってる」と答えるだけで大人の余裕を崩さない左之が恨めしい。

「沖田桜に、なるのか?」

耳元でささやかれ、背にぞわっと何かが走る。

「だから、ここ学校だって言ってるで」

「どうなんだよ、桜………?」

全てを言わせてくれぬまま、低く甘く名前を呼ばれれば、もう勝ち目なんて、なくて。

「なるわけないでしょ、バカ」

そんな私に満足げに笑った左之は、そっとその整った顔を近づけてくる。

「っん…………」

零距離になった瞬間に訪れるは快感と愛しさで。
名残惜し気に離されれば、訪れるは寂しさで。

「……顔。真っ赤だぜ?」

「っな、………チ、チークのせいよ」

せめてもの抵抗、少し目を逸らして答えれば。
どうだかな、と少し意地悪に笑った左之がもう一度、目を閉じて。



近づくふたり。
甘さが、はじけた。



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