2.子供以上、大人未満。

ピンポーン

はじめさんだ! シチューの味を確認していた手を止め、火を消して急いで玄関に向かった。

「いらっしゃい!」

大きくドアを開け冷たい風と一緒にはじめさんを招き入れる。

「上がっていいか」

「うん、上がって」

毎回一度玄関で立ち止まって聞いてくる彼の、そういう真面目な所も好き。

リビング兼寝室の一間には暖かい空気とシチューの香りがいっぱいで、彼も嬉しそうにいい匂いだなって言ってくれた。

大学の入学式の後、はじめさんとこの部屋でそういうことになって、しばらくは自分の部屋にいると思い出して恥かしくて大変だった。

けど今ではこうして部屋でデートする日をどこか待ちわびている自分がいて、いつもより長めに歯磨きしたり無意識に可愛い下着を選んでいるのに気付いて……一人で赤くなる。

悪い事をしているわけじゃないのに、少し疚しい気分になるのはどうしてだろう。

お母さんが生きてて知ったらまだ早いって叱られるのかな。こればかりは分からない。

“まだ学生なのに”とも思うし“でも付き合ってるし”とも思う。

未成年で、だけど18は越えていて、もう子供じゃあないんだなって思う日と、まだまだ子供だなって思う日が交互にやってくる。

でも私にはとても自然な流れで、こうして彼と親密な時間を過ごすようになった事が嬉しかった。


「はじめさん、おなか空いてる?」

「まだ大丈夫だ。それより千恵……」

「ん、」

コートを抜いたはじめさんの冷たい手が頬に触れて、一瞬首をすくめたら、傾けた顔が近づいてきて唇が重なった。

何度も何度も私を確かめるように優しく啄ばむキス。そっと触れて離れるだけなのに心拍数がどんどん上がっていく。

鼻に額に散らされて、また戻って来た唇が今度はゆっくりと深く合わさって。

やっと離れた後肩に頭を預けた私をギュッと抱き締めた彼は、シャワーを浴びてくると小声で言ってからバスルームに消えて行った。

ふぅーっと息を吐いてベッドに腰を下ろし、落ち着かない気分で時計を見たら午後五時半。

外はもう暗くなっていて……って、カーテン開いてる!

慌ててカーテンを閉めに行き、棚に伏せてあった手鏡を手に取って前髪の乱れを直した。

紅潮した頬が映っている。会って五分と経たず塗っていたリップがとれて、高校時代と変わらない顔立ちになってた。

急いで大人になりたいわけじゃないけど、もっと大人っぽくなりたいな……。顔とか……胸、とか。

バスルームのドアが開く音に手鏡を置き、少し大人な彼を待ちながらそんな事を思っていた。



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