4.夜昼さやかに 輝きわたれり

「バイト代で買えるものだから、あまり高い物じゃないんだが」

そう言ってはじめさんがカバンから取り出した小さな箱を開けると、ネックレスが入っていた。

金色の星に丸いムーンストーンが一粒乗っているペンダントトップは、小指の爪くらいの大きさでとても可愛らしい。

「可愛い! あの、ありがとう。でも実は私からのプレゼントはまだ出来てなくって」

編みかけのそれを思い出し、少し慌てた。来週のデートに渡すつもりでまだ完成していない。

はじめさんは、困ったようにモゴモゴと言い訳する私に苦笑している。

「今夜会えるって分かってたら急いだんだけど――」

「いや、構わない。何がもらえるか楽しみに待つのもいい」

その代わりに、もう一度だけ。

耳元で囁いた言葉に真っ赤になり、ネックレスの箱を握り締めて固まる私を、クラクラするような熱が襲った。

瞼の裏で星がチカチカ瞬いているみたいだった。

唇とは違った感触が私の口に入り込み、驚いて少しだけ身を捩ってしまった。

遠慮がちに口腔へ滑り込んだそれは、軽く私の舌に触れ、そっと出て行った。

唇が離れた後。思わず口元を覆って目を白黒させている私に釣られて、彼の顔まで赤くなった。

「ふぅ、これ以上ここに居たら、努力が水の泡になりそうだ」

「努力?」

昂ぶりを抑えるように深呼吸する彼は、少し苦しそうで。

私の鸚鵡返しに微苦笑すると、小さく頷いた。

「ああ、千恵が大学に合格して高校を卒業するまで……俺も全力で努力する」

だから早く受かれ。

そう言って私の髪をクシャリと撫でたはじめさんは、愛しむような優しい目で私を見下ろしていた。

瞳にチラつく何かに、また頬がカァッと熱くなる。

言葉に伏せられた意味がなんとなく伝わって、恥かしくて。

視線を外し、小さく頷いた。



それじゃあ、また。

短い挨拶で玄関から彼が消えると、私は箱からネックレスを取り出し、首にかけてみた。

リビングの鏡に映すと、小さなペンダントトップが揺れて。


メリークリスマス。


私だけの星が、胸元でキラリと小さく瞬いた。



試験まであと一ヶ月。卒業まであと四ヶ月。

「受験、頑張らなくっちゃ。受かったら……」

その先が待っている。

だから

「待っててね」


ベッドの膝掛けを手に勉強机へ戻ると、風で窓がカタカタ揺れた。

さっきと同じ一人の部屋なのに、寂しさはどこかへ消えてしまっていて。

写真立てのはじめさんと胸元のネックレスが、後押ししてくれた。

走り始めたシャーペンの音は、いつもより軽く弾んでいた。




fin.
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