3.仰げば御空に きらめく明星

胸に飛び込んで来た千恵の体を抱き締め、間に合った事にホッとした。

コートを掴む手の小ささに、守ってやりたいという気持ちが込み上げる。

涙を隠すように俯く顔を片手でそっと持ち上げ、瞼の雫に指を這わせた。

「俺も会いたかった」

恥かしそうにコクンと頷く顔は照れ臭そうに柔らかく笑み、俺は頬の赤みにそのまま指を添えた。

鼓動が速まる。

何度か試そうとしてやめた、最初のキス。

タイミングが掴めず、気付けばマンション前に着いていて、今度こそと思いながら彼女をエントランスで見送ってきた。

今夜なら……

頬に添えていた指を喉まで滑らせ、彼女の顎を支えれば。

千恵はゆっくりと瞼を閉じ、息を止めて唇を差し出してきた。




涙を拭った少し堅い指先が頬に触れ、私の顎を軽く持ち上げる。

はじめさんの顔は息がかかるほど近くまで来ていて。

このまま心臓がパンクしてしまいそうなほど急にせり上がった鼓動を感じながら、私はゆっくりと目を閉じた。

ひんやりとしていて柔らかな感触が、唇の端に触れたかと思うと。

それは私の唇の輪郭を確かめるように優しく移動し、ゆっくりと下唇を食んだ。

甘くおののく初めての感覚に体が震え、体中が心臓になってしまったみたいだった。

腰に添えられた手がより強く私を抱き締め、思わずふらつきそうになってコートにしがみついた。

最初は冷たかった彼の唇が、少しずつ温かくなってゆく。

私、キスしてる。

キスって背中が反るんだね。

色んな想像をしたけれど、こんなに泣きそうな気持ちになるんだね。

キスって……あったかい。


ゆっくりと唇が離れていった後は、恥かしくてまた俯いた。

はじめさんの顎がおでこに触れていて、声は振動と一緒に耳へ届いた。

「その……お前は今まで……」

「うん、初めて。エヘヘ、ファーストキス……置いといてよかった」

照れ臭さを隠すように笑ったら、またギュッと強く強く抱き締められた。

「もう一度」

「うん」

その先は言わなくても。

顔を上げたら自然に唇が重なった。

さっきより少し短めの、でも優しい優しいキスだった。





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