2.たえなるみ歌は 天より 響きぬ

ガラガラと表のシャッターを引き下ろし、照明の落とされた店内に戻れば、強風がシャッターを揺らして叩くような金属音が響いた。

この一週間、店はクリスマスプレゼントを買い求める客で賑わっていた。

スポーツ用品店とクリスマスなど、一見繋がりはないように見えるが、実は入部シーズンに次いで売り上げの大きい時期なのだ。

イブの今夜も閉店間際に駆け込みで数点売れた。きっと明日、新しい持ち主に歓迎される予定のそれらは、綺麗に包装され店を去った。

包装紙から新品のグローブやサッカーボールが出て来た時の笑顔を想像すると、自分の少年時代を思い出して顔が綻ぶ。

真新しい道具は次第に使い込まれ、努力の証としてやがて自信に繋がるだろう。

昼から立ち通しで足は疲れていたが、今日はなんだかその疲れが心地良かった。

時計を見ればもう九時を回っている。

急いで売り上げを金庫に移し、レジにも鍵を掛けた。

携帯を取り出し、先に連絡しようかどうか迷い……そのままポケットに戻した。



いつもならそのまま近藤さんの家に寄って鍵束を渡し、家に直帰する。

だが今夜、その足はいつもと反対方向の道へと急いでいた。

先週末電話で、イブはバイトでやっぱり会えないと告げた時――

三秒の沈黙の後、ひと際明るい声で「頑張って下さいね」と言った彼女の声が、耳に残っている。


私も友達に誘われてたから、丁度良かったです。

そんな棒読みの言葉を鵜呑みにするはずもなく。

かといって、会える保証もないのにぬか喜びさせるのは悪いかと、そのまま電話を切ってしまった。

こういう時、自分の舌がもどかしい。

イブは彼女と過ごしたいので休みます、と言えば今頃彼女を一人きりにさせずに済んだのに。

はじめは耳が痛むほど冷たい風に目を細め、小走りで夜道を進んだ。




三階建ての学生用マンションに着くと、窓の明かりで彼女の在宅を確認した。

一人暮らしの彼女をマンション前まで送ったことは何度もあるが、部屋まで行くのは初めてだ。

少し緊張で気持ちが上擦る。

階段を上がり、ドアの前で深呼吸した。

やっぱり先に電話を入れた方がよかっただろうか。風呂に入ってる可能性だってある。

携帯に手を伸ばそうか、インターホンを鳴らそうか、しばらく逡巡し。

かじかむ指先でインターホンを押した。



不意に静けさを破るチャイムの音でシャーペンを置いた千恵は、振り返ってモニターに映る彼の姿に驚いた。

「はじめさん?!」

慌てて立ち上がり、ずり落ちた膝掛けをベッドの上に放り投げ、玄関に急いだ。

バイト終わりに寄ってくれたんだ。

嘘みたい! 会えないと思ってたのに。

嬉しくて、ドアを開ける前から自然に笑顔が浮かんだ。

そっとドアを押し開けると、冷たい風と一緒に……一番会いたかった人が現れた。


外気の寒さにフルッと私の体が震え、それを見た彼はドアを閉めると玄関に立ってこちらを見下ろした。

「その……バイトで予定を空けられずすまなかった」

「いえ、私も今日は予定があったし。それに……受験生にクリスマスなんてないですから」

精一杯の嘘を笑顔で誤魔化せば、ひんやりした手が私の髪を優しく撫でた。

「クリスマスはクリスマスだ。一人にさせて悪かった」

「はじめさん……」

強がらなくていいんだと、優しい声が包み込む。

低く囁くように、温かい言葉が落とされた。


「メリークリスマス」


泣くつもりなんてなかったのに、あんまりはじめさんが優しいから。

甘えていいんだって言ってくれてるみたいで。

私は彼のコートを掴み、泣き顔を隠すように抱きついた。


「はじめさんに会いたかった」




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