57 事実 -2

私が…………私の祖先?

斎藤さんの言葉の意味が飲み込めず、僅かに怪訝な顔をしてしまった。

「なるほど、そういう事ですか。ならばここに落ちてきた理由も分かりますね。納得がいきました」

謎が解けたと言わんばかりの山南さんが、微笑みながら頷く。

すると、お千も胸の前で両手を合わせ、目をキラキラさせながら、弾んだ声で同意した。

「私も納得だわ。そういう事だったのね! 斎藤さん、千恵の為にも急いだ方がいいんじゃないかしら?

 フフフ、本当に運命なのね! 千恵の籍なら任せて、八瀬の人別帳に記載してあげるから。

 後は……お幸せにって言葉しかないわね。頑張って二人で沢山――」

「み、皆まで言うな! そ、それは……二人になって話したい。ちゃんと言いたい。頼む」

お千ちゃんが最後で言い終わらないうちに、斎藤さんは慌てたように腰を上げた。

「局長、副長、総長、宜しいでしょうか? 俺は……運命を共にしたいと考えています」

「私達が口を挟む事ではありません。二人でお決めなさい。ですが、了承が欲しいのであれば、私は賛成です」

「ったく、結局こうなるんじゃねぇか。斎藤、特例だが認めてやる。守り抜いてみせろ」

「ん? まだよく分からんが、トシと山南君が言うなら、まぁ間違いないだろう」

「有難うございます。……月宮、二人きりで話そう。」

斎藤さんは、困惑した顔と納得した顔の皆を置き去りにして、私の手を引き広間を出た。





私室に入ると座るよう促され、何が始まるんだろうと思いながらも腰を下ろす。

向かい合うように座った斎藤さんはいつになく緊張してて、心なしか耳も赤い。

言いかけては飲み込み、言い出そうとしては目を逸らす斎藤さんは、次第に頬まで赤らんできていた。

「月宮……俺はお前を好いている。お前も俺を好いてくれていると思って……間違いないな?」

「はい、でも今それを言う時なんですか? まだ皆広間にいるのに」

「ああ、急かされたり周りに言われるのは敵わん。俺は……俺自身が今言いたい。千恵、聞いてくれ。」

千恵、と呼ばれて心臓が跳ねる。下の名前で呼んでくれた……。

「はい」

「俺は……お前と縁のあるのが俺で、嬉しい。この縁を失いたくない。つまりその……。

 俺が選んだのがお前で、お前が俺を選ぶなら……共にありたいと願っている。

 これからもずっと共に、だ。千恵……俺と結婚してくれるか?」


眼差しに込められた誠実な想い。言葉に秘められた熱い心。

……愛されている、と知った。愛していると……分かった。

あなた以外に何もいらない。あなたしか、いらない。


「愛しています。私を……斎藤さんのの妻にして下さい。ずっと……そばに居させて下さい」

トクントクンと心臓の弾む音を感じながら、斎藤さんの目を見て想いを伝えた。

同じ想い。雪が降るように静かに積もった、でも触れると温かい想い。

恋より深く澄んだそれが……愛だと知った。

「ああ。俺も愛している」

斎藤は身を乗り出し、背中に腕を回して千恵を抱き締めた。胸をぶつけるように合わせ、強くしっかりと。

囁く言葉と同じくらい熱い唇が、千恵の唇を捉えた。遠慮なく入り込む舌が、言葉では足りない物を注ぎ込む。

斎藤は広間に皆を待たせている事も忘れ、ただひたすら千恵に出会えた奇跡を喜んだ。

扇情的でありながら、その口付けには真摯な愛が込められており、互いの胸の鼓動が確かな感情を教え合った。


やがて唇が離れても、抱き締めた腕は離れなかった。鼻先が擦れ合うほど顔を寄せたまま、斎藤は囁いた。

「俺を愛し、俺の子を産んでくれ。やがて子が血を繋ぎ……その遥か先にお前が生まれるはずだ。

 お前が生まれなければ、俺達は出会えん。出会えなければ……愛せん。

 愛した先に、またお前が生まれてこちらへやってくる。俺達は……永遠に愛し合うんだ」

「永遠、に?」

複雑に見え、難解に思えたこのパズル。だが、解きほぐしてみると、それは一本の赤い糸を結んだ輪になっていた。

千恵が時代を越えた意味。斎藤の前に落ちてきた訳。点と点を繋いで見えたのは……二人の絆だった。

「ああ、永遠に。何度でも、だ」

斎藤は、涙を零すまいと目を瞬かせる千恵の睫毛から、その涙すら愛おしいと唇で吸い取った。

「ふっ、面映いな。お前には俺達が愛し合って生まれ来る子の血も多少入ってるはずだ。俺の……血もな?」

まるで子を慈しむように優しくその頭を撫でると、千恵はクスクス笑いながら言った。

「ああ、だから斎藤さんに頭を撫でられると安心するのかもしれません。ひいひいひいひい……おじいちゃん?」

「プッ、まだ二十二だぞ、それはないだろう? だがきっと、日の本一歳の離れた夫婦だな。千恵は百五十年も年下か」

「クスクス、本当だ! ……斎藤さんの血が入っているなら、尚更この体を大事にしないと」

「ああ、大事にしてくれ。さあ、皆の所に戻ろう。総長と副長と……後は総司と左之も分かってたみたいだが。

 報告は必要だ。あとは…………幸せにする。共に幸せになろう」

斎藤は千恵の額に口付けを落とすと、守るように抱えて立ち上がらせた。


手を繋いで廊下に出た二人は、確かな足取りで広間へと戻って行った。




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