09 外出

自由に外出してもいいが、治安が悪い為出来るだけ幹部に同行を頼むこと。外出は前もって知らせること。

隊士と同じく門限までに戻ること。無闇に人に付いて行かないこと。

まるで小学生の夏休みの過ごし方のような注意事項を添えて、外出の許可が下りました。万歳?


祇園藤屋で宴会した際、何やら年長者達が頷き合っていたのはこの事だったのかな。

自分にはまだ許可が下りないのに、千鶴ちゃんは我が事のように喜んでくれた。

人探しは広範囲を尋ね歩く必要があり、巡察への同行が最適なのだが、治安の悪化で忙しく手が回らないらしい。

私の場合は特定の人や物を探している訳じゃないので、要は非番の人間とブラブラ遊んで来いって事だ。

罪悪感で胸がチクチクする。屯所に篭りきりの千鶴ちゃんに対してだけでなく、新選組の皆にも。

非番の人を私のお守りに使うなんて悪いよね。出来るだけって言われたし、一人で……無理だ、迷子になる。

考え事をしながら廊下を歩いていると、斎藤さんに呼び止められた。

「月宮、副長から外出の許可が下りたらしいな。今から刀を研ぎに出すが、付いて来るか?」

「いいんですか? 行きます!」

やった、渡りに船! 巾着に小物を放り込み、急いで玄関に向かった。フフ、今日は幸先がいいな。




花見に行く人でごった返す中、通りの店を眺めながら歩いていたら……はぐれました、迷子です。

幸先いいって思ったのに! えっと……どうしよう、インフォメーションセンターなんてないよね?

「どうしたの? 困ってるみたいだけど」

「あ……」

どうしよう、本当に幸先がいいかも。同胞発見、しかも女の子。このチャンスは逃せない!

見知らぬ女の子の袖を引き、目の前の茶店の椅子に座らせる。苦笑しつつも付いて来てくれた。

「クスクス、本当に困ってるみたいね? いいわよ、待ち合わせまであと少しあるから、お話しましょ」

「アハハ、ごめんなさい。あの、同胞だよね?」

「ええ、勿論! 私は八瀬の千姫。あなた血が濃いわね、どこの方? お見かけした事ないわ」

「月宮家の千恵です。会った事なくて当たり前なの。だって……時渡りの数珠を使って来たんだもの。

 150年先から。信じて……もらえる?」

「ええっ!? あの数珠って本当にあるの? 嘘、やだ、絶対眉唾だと思ってた!!」

「シーーッ、声落としてね、本当なの。私も半信半疑だったけど……来ちゃった。どうしよう?」

「どうしようって……じゃあどうして来たの? だって今まで築いてきた暮らしを捨てて来たんでしょ?

 よっぽどの覚悟だって思うじゃない、来ちゃったって貴女……。ハァ、うち、来る?」

「今はやめとくわ、でもありがとう。今の所でとてもお世話になってて、結構気に入ってるの。

 あと、気になる子もいるし。二つ下なんだけど――」

私は千鶴ちゃんの事を手短に話した。雪村という苗字に驚いていたけど、興味をそそられたようだ。

「そういう訳で、なんだか放っておけないの。もしよかったら、こっちの月宮の連絡先、今度教えてくれない?

 あ、斎藤さんだ! 今、新選組に居るから。それじゃ、またね。話聞いてくれてありがとう!」

「あっ、千恵!! ……って、行っちゃったし。ハァ、新選組か、またややこしい所に入り込んじゃって。

 月宮か……見つけられるかしら? 里はもうないし、どうしよう……あ、お菊! ちょと話があるの」

困った時はお互い様。そんな同胞の互助精神を頼りにいきなり色々お願いしちゃったけど、大丈夫かな?

見つけた斎藤さんに小さく手を振って駆け寄りながら、お千の困惑した顔を思い出し苦笑した。



斎藤は焦った。真っ直ぐ店までやって来て、この店だと言おうと振り返ったら……月宮がいない。

改めて周りを見渡すと、花見に向かう人、ひと、ヒト。ああ……はぐれたか。

つい、いつもの癖で一人真っ直ぐ歩いたが、時折振り返るなり、歩みを遅くするなり出来たはずだ。

女子と町を歩くなどない事なので、意識しすぎないようにと意識しすぎた。つまり、道中気にかけなかった。

来た道を戻りながら、自分の軽挙に呆れた。何故月宮の前だとぎこちなくなるのだろう。

外出許可を進言したのは自分だ、こうして同行も引き受けたというのに、見失うとは……。

通り半ばでこちらに手を振り駆け寄ってくる月宮に会えた。無事出会えてよかった、と胸を撫で下ろす。

「すまん、見失ったな。……どうした? やけに機嫌がいいが」

「私こそ、ごめんなさい。町並みに気をとられてて。あの、女の子の友達が出来たんです。

 迷子になって困ってたら、声を掛けてくれたの。千鶴ちゃん以外では初めてだったから嬉しくって!」

「そうか、よかったな。すぐそこの店で用事を済ませる、すまんが付き合ってくれ」

今度は少し、ゆっくり歩いた。時折後ろを振り返ると、嬉しそうに微笑んで付いてくる。

親鳥にでもなった気分だな。そんな事を考えつつ、店に刀を預けての屯所への戻り道。

袖の引かれる感覚に振り向くと、月宮が袖の端を摘んでいた。迷子の予防策だろう。

それだけなのに……なぜか急に体温が上がる。直接触れているわけでもないのに。

少しだけ重い袖が、月宮と繋がっている。ただそれだけで……心臓がうるさかった。

意識が袖に集中し、特に何か話すでもないまま歩く。屯所の門が見えた時にはホッとした。

なのに。頭を下げて礼を言う月宮が、軽い足取りで私室に戻るのを見送りながら。

袖の軽さが寂しかった。



「おりょ? 斎藤早かったじゃねぇか。千恵ちゃんと出掛けたんじゃなかったのかよ?」

「ああ、刀を研ぎに出すのに付いて来た。店に預けて、今戻ったところだ。……何がおかしい?」

「ブァハハハ、そりゃおめぇの用事じゃねぇか。あの子の外出に付き合うのが本当だろ?

 千恵ちゃんの行きたいとことか見たい物とか、食いたいもんも聞かず、真っ直ぐ行って帰って来たのかよ?」

「なっ!?」

……考えてみれば新八の言う通りだ。なぜ気付かなかったのだろう。甘い物の一つでも食べれば、

喜んだだろうに。左之や平助がよく巡察の帰りに団子を買って、二人に持って行ってる。

「……ああ、次はそうしよう」

新八に頷くと、私室に向かった。幹部の中ではわりあい細かい配慮が出来る方だと思っていたが……。

どうやらそれは仕事の面でだけだったらしい、と今回気付かされた。

勝手に酒を注ぎ、勝手にしな垂れかかってくる商売女と違い、普通の女子と接するのは難しいな。

軽く溜息をつき、月宮を思い返した。まぁ、女友達が出来たと喜んでいたし、今日はそれでよしとしよう。




今日偶然お千に会えたのは、とてつもない幸運だ。この時代はとにかく連絡手段が文しかない。

あちらじゃいつでも電話やメールでやり取り出来たし、同胞だけのPCネットワークもあったが。

顔も知らない同胞を気配だけで探すのは、至難の業だ。血の濃さによっては普通の人間と変わらないから。

今頃きっと月宮家に文を送ってくれているであろうお千を思い、自分の幸運に感謝した。

まぁきっと、月宮家だって突然現れた子孫に、何しに来たの? って思うだろうけど。

同胞同族の者だ、必ず助けになってくれるだろう。それが私達の矜持だから。

それにしても……クスッ、斎藤さんのあんなに焦った顔、初めて見たな。

自分のせいなんだけど、いつも冷静であまり喜怒哀楽を表に出さない斎藤さんだから新鮮だった。

顔はカッコいいんだから、もう少し愛想良くすればもてるだろうに、と思うが、愛想いい斎藤さんて……らしくないか。

真面目に仕事に精を出し、命令にはよく従い、非番の日には仕事道具の刀の手入れ。

今頃きっと、私室で書類仕事でもしているであろう斎藤さんが頭に浮かび、お茶でも持って行こうかな、と思った。



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