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宴席も楽しく盛り上がってお開きになった。
結局べろべろに酔っ払ってしまった永倉様は、土方様とうちの番頭に肩を担がれて置屋まで運ばれた。
その他の方々は既に帰路についたようで、土方様は泥酔した永倉様を勝手に私の座敷に転がした。

「……え?」
「払いは俺が持つから、小常、こいつを頼んだ」

挙げ句、そう一言だけ言ってから、霧里さんに連れられて奥の間へと消えていった。



さて、どうしよう。

「永倉様、風邪ひきますよ……」

盛大に鼾をかいている永倉様は、全く起きる気配などなくて、もちろん女の細腕ではびくともしない。
途方にくれたまま、ため息をついてから、夏だけれどもせめて掛け布団だけでも……と引っ張って来る。

「んん――」

体に何かが掛かった感触に反応したのか、永倉様が身をよじった。
一瞬起きたのかと期待したのだけれど、そうでは無いようで。
そのまま、私の膝にしがみついて、もものあたりに頬をすりよせた。

陽気な夢でも見ているのだろうか。
上機嫌な顔のままもう一度首のすわりをなおすと、膝の上でまた気持ちよさそうに寝息を立て始めた。

「あら……」

しがみついたままの手のひらを剥がそうとしてみたけれど、意外にもしっかりと私の着物を掴んでしまっていた。
その手のひらが、節くれ立ってごつごつとしていた。
先ほどのお座敷でのお話で、剣の達人と言われていたのを思い出す。

宴席ではおどけていて面白い方だと驚いたけれど、最初に私をかばってくれた時の印象と同じで、
本当は真面目で努力家な人なのではないかなと、そう思った。
近くにあった扇子を広げてゆるやかに風を送れば、短めの前髪が揺れた。

なんとなく、その寝顔を眺めているのが楽しくなって、気が付いたらそのままの格好で私もいつの間にか、
うとうとと舟を漕ぎ始めていたようだった。





翌朝、空が白む前に目を覚ました永倉様は、ただ私に平謝りで頭をさげた。

「酔って前後不覚だったといえ、介抱までさせてしまって、本ッ当に申し訳ない!!」
「いえ、そんなにたいしたことはしていませんから」

土下座の姿勢までされて、焦ってしまった私に、

「いやあ、でもすごい倖せな夢見てたはずなんだけどよ、夢よりも小常ちゃんの顔見てたほうが倖せだったのにって考えると、
 ものすごい残念なんだよな」

と臆面もない満面の笑みで言われると、此方の方が恥ずかしくなってしまった。





大門まで見送りに立つと、ちょうど後ろの方から霧里さんと土方先生が現れた。

「よう、新八。すっかり酒は抜けたようだな」
「いやぁ、土方さん。昨夜はすまなかった」
「まあ、たまにはあんな顔ぶれで呑むのも悪かねぇだろ」
「だな」

気の合う感じで話しながら、永倉様は土方様と肩を並べて歩き出した。

「っと」

永倉様は、もう一度くるりと振り返って私と霧里さんの方を見た。

「小常ちゃん、ありがとよ。えっと、また会いに来るな!」
「は、はい」

大きく手を振る永倉様に、私もそっと手のひらを向けた。
肩越しに横顔を見せた土方様は、ふっと笑って同じように此方に手を挙げた。




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