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霧里さんのご厚意に甘えて、夕刻からのお座敷には弥勒と二人して同行することになった。



「土方先生、本日もお目にかかれまして……」
「おいおい霧里、固ぇあいさつは抜きでいいんだぜ」

揃って顔をあげるとお座敷には六人ほどの方々が座っていた。
上座から二番目に、ちょうど見た顔があって胸がとくんと音を立てた。

私と弥勒はお座敷などではだいたい、地方を勤めることになる。
三味線を弾きながら、見回した浪士組の人たちは思っていたよりも年若かった。

演舞が一息ついて、太夫から目配せされた私は、静かに立ち上がって銚子を手に取った。

「永倉先生、さ、どうぞ」
「お、すまねえな」

間近から少し緊張して、銚子を傾ければ愛想良く応えた顔がにわかに真顔になった。

「あれ、お前さんどこかで会ったよな?」
「え……」

まさか、覚えていてくださったなんて。
驚いた私が目を丸くしているうちに、上座に座っていた土方様がにやにやと笑いながら、

「おい、新八ィ。酔いも回らねぇうちからもう口説きか」

と声をかけてくる。

「いや、違うんだって。本当に会ったことあるんだよ!」

あわてて弁明する永倉様にお連れの方々がどっと笑い声を上げた。

「新八っつあん、すぐ調子に乗るからな。姐さん気を付けろよ?」
「本当なんだって、平助。な、えっと……」
「小常と申します」

視線が集まってしまって、一斉に見られてはさすがに恥ずかしくなる。

「えっと……」

つと横を見ると、崩れた笑い顔をした永倉様が此方を向いた。

「すまん、どこで会ったのかさっぱり思い出せねえんだが」
「以前、角屋の宴会で、酔った方に絡まれていたのを助けて頂きまして……」

永倉様の目を見つめたまま、そう言うと、やっと思い当たったのか丸くした目がにっこりと弧を描いた。

「ああ! あの時の芸子さんか」

ひゅうっと口笛を鳴らすような音が聞こえた。

「へぇ新八さん、男前じゃん」
「当ったり前ぇだろ!」

どんと胸を叩いた、永倉様は咽せたように咳き込んだ。
叩き所が悪かったのだろう。
お連れの方がもう一度どっと笑い声をあげ、向かいに座っていた体の大きな方がやれやれと言った風に肩を竦めて見せた。





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