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近頃の京は、前にも増していろんな地方からのお人が集まっているようだ。

耳には勢いのある東言葉(あずまことば)が殊更増えた気がする。
早口でまくしたてるような乱暴な言葉遣いは、耳にあまり馴染まずなんとなく怖さを感じる。
けれど……。





じりじりと太陽が照りつける昼前。
ここ島原にも、熱く熱を孕んだ風が申し訳程度に吹いていた。

不意にざわっとどよめくような声が起こった。
練習していた三味線の撥を止めて顔を上げると、置屋の二階から、通り際の窓縁に寄ってめいめいが何かを覗き込んでいるようだった。
窓際からひょいと振り向いた妹分の弥勒が、此方に目配せして下を指をさしている。

「小常姐さん、あれ」
「……?」

何だろうと思って、私も三味線を置いて立ち上がり、窓際に寄った。
周りの視線の先を見れば、薄青色の羽織を来た数人の侍が、堂筋(島原の大通り)を警邏するように歩いていた。

「……壬生浪やわ、あれ」

と誰かが一瞥してから声を顰めて言うのが聞こえた。



壬生浪と言えば、確かに島原では良い印象は無い。
祇園の月の終わりだったか、角屋(すみや)を総揚げして大宴会を催したあげく、大暴れしたのはまだ私たちの記憶に新しかった。


その日は、三十数名の客に対して、置屋から十人近くの太夫が呼ばれていた。
もちろんそれに新造や禿(かむろ)、私たち地方(じかた)が混ざるものだから、角屋の大きな広間に人が溢れていた。
一人の客に対して侍る女の数の方がこれだけ多いという宴席は珍しく、金持ちの商家の大旦那だってなかなかやらない。
名門の置屋から呼ばれた名だたる太夫達も、その節操の無い宴会に面食らってしまっていたのを覚えている。

宴席が進み、いい加減に酔った壬生浪たちは更に荒れだした。
酔った勢いで仲居や取り次ぎにもなんのかのといちゃもんをつけた挙げ句、
局長の某という男が、頭に血を上らせて鉄で出来た扇を振り回し、角屋は中の食器やら装備品をめちゃくちゃにしてしまったのだ。

角屋自体は古くから、馴染みの公家や大店があり、摂関家ゆかりの茶器だとか、太閤の筆の墨跡だとか、いろいろと立派なものもあった。
それが、無惨に壊され破られ、果てには酒の入った樽を壊して土間が酒びたしになってしまっていた。

更に数日間営業停止を言い渡され、建物などの修復のため何日も店を休ませざるを得なくなってしまったのだった。
全く、角屋にしても踏んだり蹴ったりの出来事だったと思う。
実は私も、その時宴席で地方を任されていたため、宴席用の三味線を壊されてしまった被害者の一人なのだ。

もちろん、島原でも屈指の揚屋が休みになってしまっては、私達芸妓も商売上がったり。
そんなわけで郭内での壬生浪といえば、評判が悪くても仕方が無いことだった。
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