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それは楓ちゃんが元の時代にいた頃、
十歳位の時の話し、らしい。


楓ちゃんの時代では“がっこう”っていう寺子屋みたいなものがあって、
そこでは男の子だけじゃなく、女の子も一緒に…(一緒にだよ?)手習いをするんだそう……



楓ちゃんが思い出したキレイな月…というのは、その“がっこう”の仲間達と、山に泊まりに行った時に見たもの。


自然に触れ合うとか、僕にはさっぱりわからない理由で、楓ちゃんの時代の子供たちは、一晩か二晩、山に泊まりにいく行事があるとかで…


山菜を取ったり、魚を釣ったり…、ご飯を作ったり…
それって、単に山里の村の生活…じゃないの?
と思ったりするけど、口を挿むのは止めておく。


楓ちゃんがこの時代に来て、ここの生活になれるまでの四苦八苦を見てるから…

多分、君の元の世界は僕の想像もつかない所なんだろうからね。



ただ、身振り手振りで楽しそうに話す君の横顔を見ているだけで嬉しくて…、

囁くような君の声に耳を傾けた。

  
 
 
 
 

 
 

 
 




 
 
※※※※※※


= 楓 =



斜め上から見下ろす今は深緑に見える瞳がすごく優しくなって…
思わず言葉が途切れてしまった。


さっきまで、あんなにぷんぷんと怒っていた同じ人とは思えない柔らい視線。



私の元の時代の話しなんか、総司さんには半分も分からないと思う。


小学校で行った林間学校。
初めてクラスで行くお泊りの行事にすごくわくわくしてて、


迷子になったウォークラリーの事、
山菜取り出スッ転んで泥だらけになったクラスメ―トの事、
飯ごう炊飯でカレーを作った事、
キャンプ地近くでクマが掴まって、檻の中に囚われたクマを見た事。
あれは初めて見る野生のクマだったんだよ?



どれもこれも総司さんには想像つかないと思うの。

でも、私が楽しそうに話すからか、総司さんはすごく嬉しそうに聞いてくれる。

その横顔になんだか、ウキウキした気分で…
何年も前の小学生だった頃に戻った気がした。


思い出の中に浮かんだ月は…満月ではないけど、
今、総司さんに背中を預けて見上げるあの時の150年前の月と同じ位に……




夕飯の後のキャンプファイアも終わった私達はそれぞれに割り当てられているロッジに戻って、
後は10時の消灯の時間を待つだけの自由時間。



大きめのロッジには私を含め6人の女子がいて、お喋りをする子、髪の手入れをする子、隠して持ってきたipodを聞いてる子と自由気ままで…

私は窓際に陣取った布団に座って、“あっちゃん”って言う仲良しさんとおしゃべりをしてた。




トントン…


とロッジのドアが叩かれたのは、ホント消灯時間間際…

ノックの音を待ってたのか、一人の女の子がドアを開けると



『来たぞーー!!』


という囁きに近い声と共に入って来たのは、
クラスの男子達だった。

クラスのうるさ…、賑やかな、……名前、忘れた…男子三人組と
その三人組に引きずられてきた小柄なコウ君。
それから、ちょっと女の子みたいにきれいな顔した、でもケンカは強いって噂のタキ君。



な、何で?何で?!


固まる私や一部の女の子達にお構いなく、5人の男子が手におやつやら、トランプやら片手にドヤドヤとなだれ込んできた。


「せっかくのお泊りなんだから、いっぱい遊ばなくちゃ勿体ないじゃん!」


ドアを開けた女の子がニッと笑って、ipod聞いてる子のイヤホンを引き抜いてその手を引っぱり、
私とあっちゃんを手招きする。


頭の中で、これ見つかったら怒られるよ、絶対…とは思ったんだけど、

でもね…

いつもと違う…
楽しくて、ドキドキ、ハラハラ連続の一日のテンションが最高潮に達してたんだと思うの。



「楓ちゃんもおいでよ!」


の声に誘われるまま、私もあっちゃんも既にトランプの大富豪で盛り上がり始めいた輪の中へ近づいていった。






※※※※※

 
 


ふいに身体が締め付けられる感覚に、意識が“今”に戻った。

締め付けてるのが総司さんの腕であるのを思い出し、首を倒して背中から私を抱きかかえている総司さんの顔を見上げる。


ちょうど真上に来た月のせいで、影になって見えない表情のなかで、目の白い部分だけが浮き上がって見えて、
そこだけを見詰めて笑ってみる。
すると、その白が少し細まってゆっくりと降りてきた。

鼻先にチュッと触れた口唇。
ほんの少しだけ触れた後、話しの続きを促す様にポンポンを手を回したお腹を叩かれて…、



「それで、何をしてたの?みんなで…?」
「ん〜〜、トランプ……かるた遊びとか、お菓子食べたりとかですよ?
そういえば、ゲーム機持って来てる子もいたかな…」
「………?」


総司さんが“ゲーム機”に小首を傾げたのは見えたんだけど、私の頭の中はその後の出来事に飛んで行っていて…


顔が綻ぶままに話しを続けた。
 
 
 
 

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