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= 総司 =


意識の下…いわゆる無意識ってやつで感じた微かな違和感。


命に拘わる…ものじゃないけど、途端沸き上がる不安感に僕の心は急激に現へと浮上し始めた…


まだ、朝まで間があるはず…


瞼も開かないうちに体が勝手に僕の“安心の源”を求めて動く。

優しい香りのする柔らかい髪をすり抜けて、滑らかなうなじに口づければ…

ほら、もう一度深い眠りに落ち……


……………あ、れ……?


触れるはずのくすぐったい感触も、仄かな温もりも空を切って…


僕は跳ねるように飛び起きた。



「楓ちゃん…?」



傍からを見下ろして、そこにいるはずのあの娘がいないのに気付く。



「どこ、行ったんだろ…?」



募る不安にかられ刀台の愛刀に手を取ったけど、
やっぱり命に拘わる気配は感じられなくて…、
それを戻し、僕は一人残された布団から出た。


て、言うか…
あの娘が布団から…、
僕の傍から離れたのに気づかなかったなんて…

どんだけ、寝入ってたんだか…


呆れて苦笑しながらも、その理由も承知している僕。



ここ数年…、
違う、多分、近藤さんの試衛館に弟子入りした時から、
僕は深い眠りに就いたことがない。

意識の一部は必ず起きていて、常に辺りの気を張り巡らせる。
それが、僕の周りを囲むのが敵だろうが、味方だろうが関係ない。

僕はいつも何らかの膜を自分に貼っていて…



それが、僕…
それが…沖田総司。


誰も破る事なんか出来ない
誰も僕の中までは入れない……そう思っていた。


なのに…


突然、僕の前に現れた君は、いとも簡単に僕の根深い強張った膜を解いてしまった。


あんな小さな体のどこに、そんな力があるんだろう…?


君を腕の中に抱いて…横になる。
その柔らかさが、僕の体の奥のしこりを溶かして…

「おやすみ」という手が髪をそっと撫でる。
その温もりが、僕の意識をまどろみへと誘う。


そして、安心しきった子供みたいに僕は眠るんだ。


だから……


ふいに思い当たった事に、僕は開けようとした障子の前で立ち尽くす。



だから…
目が覚めたのか。

無意識のうちに感じ取った不安。
あれは…君を感じられなくなったから…だ。


君…という存在を確かめられなくなった途端、
僕の体が不安に、寂しさにざわめき出した。



こんだけ、僕を不安にさせといて…
一体、君はどこにいるのやら…


小さい吐息を一つ。
僕は障子を開けて中庭を見下ろす廊下へと出た。
 
 

 
 

 
 
※※※※※

 
 


捜し人は存外、すぐ近くにいた。


少し冷えた夜風が甘い香りを運んできて、
それに誘われ目を向けた先に、降り注ぐ月明かりに霞む君の後ろ姿。

近づく僕に気付く事なく、ただ空を…淡い光を放つ月を見上げていて…


僕は“月を見上げる君”の姿に、ぎくり…、と足を止める。



泣いてる…?



出会って間もない頃によく見た、
月を見上げ佇むその背中は、

『帰りたい、お母さんに会いたい…』

そう語ったっけ…
なのに、涙する事なく乾いた笑みを浮かべる君を…

泣かせたくて、帰したくなくて意地悪をしたよね。



あれから…、
月日が経って、君がここにいる事が当たり前になって、
僕らの関係も変わった。


それでも、君はまだ月を見上げているの…?




「楓ちゃん……」



伸ばせば手が届く傍まで近づいて声をかけると、ぱさっと肩にかかった髪が揺れて…


振り返った顔に…僕は目を見開いた。

そこに、思いも依らない、朗らかな笑みが浮かんでいたから…。
 
 


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