79 祝言

お千ちゃんの計らいにより、一旦八瀬の分家筋の方の養女になり、左之助さんと結婚出来る形に整えた。

身分の違う相手と結婚したい場合に、出身階級を揃えるためによく使われる方法だという。

なるほど、なんにでも抜け道ってあるんだね、よく出来ている。そして、夫婦になる届けを出して終了!

……と思っていたのだが。お千ちゃん何だか気合が入っています。あれ? 私の結婚だよね?



「ねぇお菊、白無垢の生地はどれがいいかしら? こちらの金糸のも捨てがたいわね……。

 屯所だと、隊士さんの目があるから……。八瀬の屋敷と島原のお座敷、どっちで挙げる?

 こちらは遠いし、有事に戻れるよう屯所の近くがいいかしら? 花町がお嫌なら、茶店の二階を貸しきってもいいし。

 千穂さん? 紅はご自分のを使う? それとも白粉に合わせて買う?」

「……えっと、どうしよう? あちらでは紙切れ一枚で済ませたから、実は初めてなのよね、ハハハ。

 祝言って言っても、呼ぶのは義父母のお二人とお千ちゃんだけでしょ? あとはうちの幹部だし。

 あんまり派手なのは……ちょっとね。場所はどこでもいいけど、そんなところにお金使いたくないし。

 紅は折角だから京紅を使ってみたい、かな?」

「おいおい千穂、金ならある! ってほどの大金持ちじゃねぇが、それなりに貯めてるし、

 こんなとこでケチらなくていいんだぞ? お千ちゃん、こっちの生地がいいな、千穂に似合う。

 席は……千穂には悪いが花町の方がいいだろ。あそこだと敵も帯刀出来ない。

 流石に祝言の席に刃物はなぁ。皆外してるとこを襲撃されても困るしよ。いいか?」

なんだかどんどん話が進んでいきます。私は頷くだけ。もう、お任せしちゃおう。




そして迎えた祝言当日。新選組幹部が勢揃いする座敷に、白無垢姿で登場すれば、歓声があがる。

義父母と近藤さんに挨拶を頼み、静かにお神酒に口をつけた。なんだか緊張する。

お神酒を飲み干した後、左之助さんを見上げると、嬉しそうに微笑んでくれた。今日から、あなたの妻です。

「さぁ皆、三国一の花嫁さんの誕生だ、大いに飲もう!!」

 近藤さんの声をきっかけに、無礼講の宴会が始まる。まぁ皆こっちが目当てよね、うん。

「千穂さんおめでとう。うちから人に嫁ぐなんて勿体無いけど……幸せが一番だからね。

 八瀬が後ろ盾なら、どちら側も迂闊に手出し出来ないから、いつでも名前出して頂戴ね。

 ホント、名前ぐらいしか使い道のない古い家なんだから」

全て万端整える為に動いてくれたお千ちゃん。彼女には、感謝してもしきれない。

「本当に、何から何までありがとう。また遊びに行くし、お千ちゃんも是非来てね!」

「ええ、これからもよろしくね。一応親戚なんだし。喧嘩しちゃって離れたい時も家で匿うし、フフフ」

無いとは思いたいが避難場所があるのは有り難い。さぁ、後は宴会を楽しむだけだ!




口々におめでとう、綺麗だ、幸せにと祝いの言葉を受け、幸せでのぼせてしまいそうだった。

本当にお式の席を設けてよかったな、紙切れ一枚とは気分が全然違うし、皆も喜んでくれたし。

初夜が屯所ってのは恥ずかしいだろ? と、左之助さんが部屋を取ってくれていた。よく気が利く旦那様だわ。

湯を貰い、体を清めて夜着に着替えた。布団の上で正座で待つ。こんなの、時代劇かなんかで見たなぁ。

同じく湯を貰った左之助さんが、部屋に入ってくる。な、なんだか緊張するなぁ。でも一応。

「不束者ですが、よろしくお願いします」

三つ指突いてちゃんとお辞儀したのに。左之助さんったら、笑って私を抱っこしたのだ!

「んな堅苦しいの、俺らに似合わねぇよ。こっち来いよ。……愛してる。もう一生、俺のもんだ」

「フフフ、私も愛してる! 左之助さんも私のもんだからね?」

「ああ、全部やるからお前もくれ、な」

布団に押し倒され、指を絡め取られる。熱い視線が降ってくる。瞳が、雄に変わった。

期待と愛される喜びに、小さく震えた。





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