78 報告・連絡・相談
お千ちゃんと会ったその10日ほど後、広島に行っていた近藤さんが帰京した。
左之助さんの非番と、近藤さん、土方さん、山南さんの都合が合う日を探し、四月の初めに席を設けてもらった。
私は左之助さんの隣りに座り、言葉を待つ。最初に切り出したのは、意外にも近藤さんだった。
「原田くん、都築くん、二人の顔つきを見ていれば分かる。……結婚、かな?」
「ああ、近藤さん、そうだ。ハハハ、やっぱ敵わねぇな。食客の頃からそこに惹かれてここまで来たんだが。
……千穂を嫁に貰いてぇ。千穂も、俺を選んでくれた。もう離れる気はないんだ、分かってくれ」
「フゥ、千穂も選んだんですね。……千穂、いいんですね、彼で?」
「山南さん……。ええ、決めました。彼と、左之助さんと共に歩みます」
「よかった、一番ましな選択肢です。ま、新選組から選んだのは良かったか悪かったか……。
分かっていて選んだんですから、もう何も言いません。千穂、幸せになりなさい。
原田くん、仏の山南を怒らせると怖いですよ? お願いしますね?」
「ああ、分かってるさ。山南さん、あんたも無茶はやめてくれよ? 千穂を泣かせたのは、あんただぜ?」
山南さんは、微苦笑すると、頷いた。まぁあれ以上の無茶は流石に無いだろうが。善処する、と。
そこで初めて土方さんが口を開いた。
「幹部は、近藤さんのように別宅を構えることが出来る。だが、弱点として狙われる可能性もある。
一番安全なのは、屯所の中で一部屋に住む事だが、どうしたい? 通うか?
前らの仲は周知の事実だし、幹部は皆祝福するだろうよ。ただ、伊東さんらの前ではちゃんとしろ」
私と左之助さんは顔を見合わせる。それはもちろん……
「「屯所で!」」
「はぁ〜〜ったく、言うと思ったよ。頼むから羽目外しすぎんなよ? お互い大人なんだ。了解だ、好きにしろ。
あとは籍の件だ。俺でも近藤さんでも山南さんでも、好きな伝を使え。
どうせすぐ祝言挙げるからどこの養女になってもいいが。一応出戻り先になるからな?」
ニヤリと笑う。ううっ、歳さんのいけず! もう出戻りませんよ〜〜だ。
「いや、真面目な話、俺に何かあった時千穂の身元引受人になる人間だ。軽くは選べねぇ。
そこで、だ。……実は、千穂の身元を引き受けてくれる人がいるんだ。千姫さんって人で……」
左之助さんは、鬼の話を除いて、雪村の母方の里を知る、信頼出来る人としてお千ちゃんを紹介した。
瑠璃の数珠で分かったのだと説明し、私の来た方法も掻い摘んで話した。
「やはり、都築くんは名家のご息女だったんだね、いや、下働きみたいに使ってきて悪かった!」
いや、近藤さん、あなたに頭を下げられたら本当に困ります! 焦って答える。
「いえ、未来ではただの町娘ですから! 今まで通り、変わらない態度で接して頂かないと困ります!」
「ああ、そんな風じゃ千穂も居心地が悪くなっちまう。
そんな訳で、籍はそっちのお願いしようと思ってる。皆で言ってくれたのに、悪いな」
「いえ、京の名家が後ろ盾となれば、先々何かあった時に安心です。是非そうなさい」
山南さんは、先を既に読んでいる。幕府側の人間に預けるべきではない、と。だから快諾した。
恐らく、土方さんもその辺りは汲んでいるだろう。千姫に頼むのが最適だと。
後は、幹部の皆と千鶴ちゃんだ。特に、同じ建物内とはいえ、部屋が分かれる千鶴ちゃんが心配だった。
「「えぇ〜〜〜〜〜っっっ!! マジかよ?!」」
叫んだのは、もちろん新八さんと平助だ。ええ、マジですよ、大マジ。冗談で言いませんってば。
「いや、しっかし千穂ちゃんよくこいつにしたな。こんな女たらし……グヘェッ」
新八さんが飛びました。ええ、綺麗な放物線でしたよ?
「まぁ千穂さん綺麗だからな、いくら左之さんに言い寄る女がいても、大丈夫だろ! おめでとうな!」
ああ、弟が素直に育って、お姉さんは本当に嬉しいよ。なんとなく、頭を撫でてしまった。成人してるのに。
「左之、都築、おめでとう。結婚すればどちらも原田か。千穂に変えるが、いいか?」
斎藤君が、至極真面目に許可を求める。もちろん、と頷く。斎藤も呼び捨てか……と、左之助さんは複雑そうだけど。
「まぁ、予想通りだったかな。左之さん、僕なりの方法で祝福するから、遠慮せず受け取ってね?」
なんでだろう、総司が若干黒く見えて、左之助さんが若干青く見える??
「いや、本当に娘を嫁に出す気分だよ。都築くん、幸せになりなさい。原田くん頼んだよ」
井上さんは目を細め笑った。私にとっても、井上さんはお父さんのような人だ。祝福が嬉しかった。
最後に……千鶴ちゃんと見詰め合う。要らぬ苦労を背負い込み、健気に頑張る彼女に、どれ程励まされたか。
「千鶴ちゃん、ごめんね。たまに泊まりに行くから、その時は沢山お喋りしようね?」
「いえ、そんな!! 寂しくなるも何も、毎日会えますし、同じ建物じゃないですか!
わたしこそ、今まで頼ってばっかりで……。本当におめでとうございます! 嬉しいです!」
みんなのおめでとう。みんなの笑顔。嬉しくて、胸が熱くなる。
幸せになろうね、と、左之助さんと目線を交わした。
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