61 女友達

こちらに来て二度目の春。西本願寺の桜は今が満開です。今日は非番の新八さんがお酒を買いに行くのを

目敏く見つけて連れ出して貰った。今夜は境内の桜で一杯やるんだと嬉しそう。花見酒、いいね〜。

「千穂ちゃんもいける口なんだって? 一緒に飲もうぜ。土方さんも留守だし、構わねぇんじゃねぇか?」

「いいの? じゃあ、お言葉に甘えて。何かつまむもん作ってあげるね!」


帰りの待ち合わせだけ決めて市場の中で別れる。過保護な面子が多い中、彼は割りと自由にさせてくれる。

香ばしいお醤油の匂いに誘われて茶屋に行くと、年頃の女の子達で賑わっていた。

焼き団子一皿とお茶を頼み席に座ると、混んでるせいか相席を頼まれ、隣に座ったのは千鶴ちゃんと同じ年頃の女の子。

良さそうな生地の着物を着て、良い所のお嬢さんといった風。目が合うと人懐っこく笑い、話しかけてきた。

「あなたも一人? 私は千っていうの、席が空いててよかったわ。よろしくね。あなたのお名前は?」

「都築千穂よ、お買い物?」

「いえ、待ち合わせ。あなた……女の子よね? 袴が似合ってて素敵! 良かったらお友達にならない?」

「ありがと、じゃあよろしくね。お千ちゃんも着物似合ってて可愛いね。いいとこの子でしょ〜?」

「あはは、古くから続いてるだけよ。堅苦しくってうんざり。そろそろ結婚を〜とか言われるし。早いわよ!

 ところで、さっき新選組の人と一緒にいたでしょ? 怖くない? 苛められたりとか、しない?」

「まさか! 皆いい人達だよ? 町では良い風に言われてないの知ってるけど。話すと案外普通だよ?」

「そうなんだ、よかった! 千穂さんは、言葉からすると東の方の人かな? こちらには……親御さんの仕事で?」

「ううん、身寄りなしの根無し草。あ、でも今は新選組にお世話になってるの。フフ、内緒にしてね。お千ちゃんは?」

「私はずっと京。お身内がいないなんて気の毒ね。お母様の里でのお名前、良かったら教えて貰える?」

「え?? ……雪村……だけど、なんで?」

「あの、いや、なんか初めて会った気がしなくって、親戚かなって。変な事聞いてごめんなさいね?

 あっ、お菊が来た! 話せて楽しかったわ、また会いましょうね!」


お供の女性が来たのか、慌てて手を振り出て行った。元気な子だな〜。でも、最後ちょっと違和感があった。

初対面の人の母親の旧姓なんて、普通聞かないよね? あれはちょっと面食らったな。

でも、美味しいお団子を食べているうちに、すっかり忘れてしまった。団子、千鶴ちゃんにも買って帰ろうっと。

両腕に酒の瓶を持って嬉しそうにやってきた新八さんと合流し、お西さんへと帰路を急いだ。


豆腐田楽をつまみに新八さんと左之さんと、花見酒。いい感じに酔いがまわった頃には、新八さんは潰れて夢の中。

「フゥ〜、朧月夜に桜と美人と旨い酒。言う事なしだな。お前……綺麗だな」

「っ! あ……ありがと。今日ね、お千ちゃんっていう女の子と友達になったの。とても元気な子でね、

 千鶴ちゃんと同い年くらいかな? 可愛かったな。縁談を急かされてるって拗ねてた。こっちの子は早いね」

「ククッ、話変えたな? まぁ……大体二十歳位までに嫁ぐな。本当なら、千穂も千鶴もそろそろだ。

 にしても、外に女の友達が出来てよかったな。会いたくなったら連れてってやるから声掛けてくれな?」

「うん、ありがとう。さ、新八さん運んで私達も寝よう。食器片付けておくね」

好きだとか惚れたとか、綺麗だとか……左之さんはストレートにぶつけてくるので、クラクラする。

こんな調子じゃ恋人になったらどうなるんだろ? もし付き合ったら……危ないな、落とされそうだよ。

でも本当に。お千ちゃん感じのいい子だったし、新鮮で楽しかった。千鶴ちゃんにも紹介してあげたいな。


 

「姫様、いかがでしたか?」

「母方が雪村だったわ。分家かしら? にしては気が濃いのだけれど。身寄りがないし、保護してあげてもいいわね。

 私の名前を聞いても反応がなかったの。隠してるのか、知らないのか、分からないけれど。

 都築千穂よ、早速調べて。あとは、新選組の巡察に同行してる女の子も多分……。そっちもよろしくね」

「承知致しました」


私が予想もしない方向に、何かが動き出していた。






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