56 豹変

「誰かっ! 誰か来て下さい!!」

千鶴ちゃん!?

私よりも先に反応したのは総司だった。慌てて後を追う。

広間に行くと、髪の白い人物が千鶴ちゃんの首を絞めていた。仰天して駆け寄ろうとする私に

「千穂ちゃん、来ちゃだめだ!! 見るなぁっ!!」

総司が絶叫した。したのに……見えてしまった。赤い目をした山南さん。

気が触れたみたく笑ってる……怖い。イヤダ。

「山南……さん? 山南さん! 何やってんの!? 私が分かんないの? 山南さん!!」

ハッとしたように目に生気が戻る。……よかった!

ようやく千鶴ちゃんの首から手を離した山南さんは、苦しそうに顔を歪めながら懇願した。

「千穂、見ないで……下さい。沖田くん……失敗、です。介錯を……早く……クッ!!」

総司が抜刀し、間合いを詰める。

「まさかっ!? やめて下さい! 沖田さん!!」

「君には関係ないっ! 口出しせず黙って離れて!!」

総司が千鶴ちゃんを制し、山南さんに刀を振りかざした瞬間、ギュッと目を瞑った。

ザシュッッ

肉を斬る音だけが、耳に残った。



目を開けると、血を流し床に突っ伏した山南さんと、それを見下ろす総司がいた。

白かった髪が急激に元の黒髪に戻っていく。

な……に? ……何? 誰? これ。知らない。こんな山南さん知らない!

どうして目が赤かったの? なんで髪が白かったの? どうしてまた元に戻ったの? どうして……何も言わないの?

「大丈夫。薬を飲んだなら、これくらいじゃ死なない。いや、死ねない、かな」

薬って何? なんで斬られても死なないの? どうしてそんなに、悲しそうな目で微笑むの?

なんで…………殺さなかったの?




喉元を押さえながら千鶴ちゃんが泣いている。大丈夫? って駆け寄りたいのに、足が動かない。

山南さんが倒れている。鼓動を確かめたいのに、触れられない。

生きてたら怖いのか、死んでたら怖いのか、自分でもよく分からない。でも……。

「馬鹿」

一度口をついた言葉は止まらない。

「馬鹿だよ! 馬鹿バカばか!!! 皆バカ!! 山南さんも! 総司も! 新選組も! みんな馬鹿だよ。

 ……私もっ、馬鹿だっ!!」

お馬鹿さんだと笑い合ったのはいつだっけ? そんな馬鹿の集まりが大好きだと言ったの……忘れたの?




やがて幹部の皆が集まり、総司が山南さんを抱き上げて出て行った。

私は手拭いを裂き、千鶴ちゃんの首に巻いた。秘密を守る為に。

それから決心し、顔を上げて皆を見たのに、誰とも目線が合わなかった。




「説明して下さい。私には、聞く権利があります」


歳さんと目が合った。その瞳が何かを堪えるように少し揺れた後、彼は言った。



「てめえになんの権利がある」



唇をかみ締めた。血の味がした。






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