54 放心

余程ひどい顔をしてたのだろう。廊下に座り込む私の横に、歳さんがしゃがんだ。

「辛い思いさせちまって、悪かったな。厄介な野郎だがあれでも大幹部だ、無下には出来ねぇ。

 お前が居れば山南さんは大丈夫だと、甘え過ぎちまった。……すまない」

「ううん、役に立てなくてごめんね。私も過信してた。山南さんは強い人だから大丈夫だって。

 左腕が使えなくなって、辛くないはずがないのに。私の前ではいつだって穏やかだったから。……馬鹿だよね」

「いや、馬鹿は俺らだ。どう言っていいのか分からなくて、必要な時に必要な言葉を掛け損ねた。

 仲間だってぇのに……情けねぇ話だ。とにかく今日は休め。付いててやりたいが、仕事でな。

 一人で考え込むなよ? 誰かに一緒に居てもらえ。おめぇが泣くとこ初めて見たが……一番堪える」

歳さんは眉尻を下げて自嘲気味に笑った。



そばにいてやりたい時にいてやれない。今日ほど自分の立場に嫌気がさしたことはなかったな。

廊下の向こうに、総司が柱にもたれかかりながら待っていた。くそっ、しかたねぇ。

他の奴に譲るなんて癪だが、どうせ任せるなら、千穂を本気で大事に想っている奴に任せる方が安心だ。

千穂の頭をひと撫でし、吹っ切るように立ち上がると、こっちにやってきた総司に耳打ちする。

「後、頼む」

「ええ」

総司が千穂を立ち上がらせて肩を抱く様子を目の端で確認し、話し合いの席に戻った。

新選組のために。あいつの……千穂の居場所の為に。




土方さんと交代で、千穂ちゃんのそばに立つ。話し合いが終わって伊東さんが出てくる前に移動しないと。

「行こう、千穂ちゃん」

手を貸して立ち上がらせ、肩を抱いて部屋へ連れて行く。こんなに小さかったっけ? こんなに華奢だったっけ?

強く抱きしめたら壊れてしまいそうだから、そっと優しく手を添える。

さあ、もう一人で泣かないで。僕がいる。

千穂ちゃんの心の中にしゃがみ込んでいる小さな女の子に声を掛ける。ねぇ、一緒に、行こう?

 




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