52 伊東参謀

伊東甲子太郎という方が新しい参謀としてやってきた。隊士も激増し、屯所はすし詰め状態だ。

私と千鶴ちゃんを知らない人が増えたので、安全を考えて、平隊士との接触が再び禁じられた。

だいぶ仲良くなって、色々と手伝いを頼んでいたので残念だったが、完全に幹部のみの世話でよくなり、

かえって仕事が楽になった。伊東さんは勤王派だが、佐幕派の近藤さんと攘夷の辺りで合うらしい。

が、幹部の面々にはすこぶる評判が悪い。ま、阪神ファンと巨人ファンが仲良く出来ないのと同じだろうね。

「女の私に政治なんて難しい事分かりませんよ。そういうのは男同士でやってちょうだい」

ああ、この言葉、なんて便利なんだろう! そんなこと、露ほども思ってなくても使います、自分の為に。



「わりぃな、ややこしい話聞かせちまって。折角上手い飯作ってくれてんのにな」

さすが左之さん! そうそう、ご飯時に政治の話なんてするもんじゃないよ。どうせ答えは出ないんだし。

「ああ、本当に君達が当番に入ると食事が楽しみになるよ。野菜も米も無駄にならない」

井上さん、話題の方向変えてくれてありがとう! あと、褒めてくれてありがとう!

「刀の流派と同じぐらい、思想にも数がある。どれが悪いというものでもないだろう」

斎藤君……考え方はリベラルだけど、そっちに戻しちゃうのね。

「思想なんてどうでもいいけど、僕はあの人、苦手だな。好きになれない」

総司はそれでいい気がする。彼が好きなのは近藤さんと剣術。あとは感覚で判断。迷いがないよね。

「彼は論客としても剣士としても優秀です。肩の荷が下りました。後は安心してお任せしますよ」

いや、まさかの引退宣言ですか!? 駄目でしょ山南さん。場が凍り付いちゃった。

「もう来ちまってんだ。後は上手くやってくしかねぇだろ」

板ばさみですよねー。きっとまた眉間の皺が増えるな。沢庵買ってあげよう、うん。

「千鶴ちゃん、飯のおかわりくれや! あと、味噌汁も頼む!」

お帰り、新八さん。さすが、空気を読まないムードメーカー! この広間には君が必要だよ。

皆さん食事は楽しく頂きましょうね?



でも広間で引退宣言した山南さんは。伊東さんが来てから自室に篭ることが多くなった。

同じ勤王派の伊東さんが自分より高い役職に迎えられ、居場所を無くしたように感じているのかもしれない。

皆が必要なのは山南さん自身だというのに。その気持ちが届かないくらい、日に日に壁を厚くしていった。






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