12 ※ただしイケメンに限る

「千穂、千鶴、入っていいか?」

一声掛けてきたのは左之さんだった。部屋に招き入れる。

「今朝は悪かったな。なんか欲しいもんないか? 詫びのつもりだ、遠慮なく言ってくれ」

なら見物料、と言いたいどころだけど、もらった所でここから出られない私には使うあてもない。

ここは素直に、今一番欲しいものをおねだりしよう。

「じゃあ、小さい火鉢! ここでそれが贅沢品なのか日用品なのか、価値がよく分からないんだけど。

 もしあれば、分けてもらえる? 何もせずじっとしていると冷えちゃって」

部屋に押し込めてる罪悪感もちょっと煽ってみた。

「女が体を冷やすのはよくねぇ。悪いな、気付かなくて。納戸にないかちょっと見てくるわ」

快く引き受けてくれる。フェミニスト万歳! 環境改善の第一歩です、フフフ。

見つけた火鉢に火種を入れて持ってきてくれた左之さんと、監視役の平助を招きいれて、

四人で暖をとりながら和やかなおしゃべりタイム。

千鶴ちゃんと平助は「平助でいいよ」「じゃあ平助君で」なんて呼び方を決め合ってていい感じ。

若い人は若い人同士で……なんて、おばさんみたいな台詞が飛び出しちゃいそうだわ。

「なぁ、若返るってのはどんな気分だ? やっぱいいもんか?」

隣に座った左之さんが聞いてくる。

「ん〜特にまだなんとも。あっちだと合わない服が色々ありそうだけど、こっちは着物だしね。

 髪が黒いのにはちょっと違和感あるかな?」

白髪が生えてたのか!? と驚くので、笑いながらカラーリングのことを話す。

黒を茶色にする意味は分からないが面白そうだと言ってくれた。

平成でもすぐ馴染めそうだね、左之さんなら。

「左之さんだったらどうする? 若返ったら嬉しい?」

「いや、今更そりゃ困るなぁ〜。あの頃の俺じゃ十番組は背負えねぇし、

 この十年やってきた努力が無駄になるのはちょっと……な」

「確かにいい体してるもんね〜」

鍛錬と実践で身に着けた逞しい上腕筋に目をやる。

なんかこう、守ってもらえそうな感じするよね。マッチョが好みっていうわけでもないんだけど。

「ん? なんだ? 腕枕ならいつでもしてやんぞ?」

片眉を上げて私を覗き込む。近づいてくる顔は色気たっぷり。

「子供にちょっかいかけないの! 十七よ? 私」

おでこを軽くはたいて顔を押し返す。危ない危ない、ノるとこだったよ、もうっ。

「ハハハ、確かに嘘は言ってねぇな。お前は十七だ。見た目は、な?」

あっさり引くところが慣れてる感じ。おふざけのラインをちゃんと心得ている。

一歩間違えばセクハラ親父だけど、許されるのはイケメンだから?



「おい、入るぞ」

入ってきた土方さんが、平助と左之さんを見て眉をしかめる。

「原田は非番だが、平助、お前監視役の意味分かってんのか? 暢気にあったまりやがって。

 都築を借りるぞ。ちょっと来い、話がある」

廊下に消えた土方さんを、慌てて追いかける。話ってなんだろう?


まぁ、なんとなく想像はつくけど。





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