128 胎動

夢を見た。近藤さんの。最後に見た戦に向かう険しい表情ではなく、京にいた頃のように朗らかだった。

私の少し膨らんだお腹を嬉しそうに見ると、元気でな、と頭をくしゃくしゃ撫でて立ち去った。

最後にきちんとご挨拶もお礼も言えなかったので、元気そうで良かったな、と安心し、深い眠りに入った。

それが本当のお別れだったとも知らず、目が覚めた時は幸せな気分だった。




千鶴ちゃんからの文が届いた。朝、お千ちゃんの所に届けられたのを、左之助さんが受け取って来たのだ。


  千穂さん、お元気ですか?私も平助君も、道中無事で、おとつい里に着きました。父が迎えてくれました。

  もう十五年たつのに、焼け跡はそのままで、草が沢山生えています。

  父と母の遺骨は土に埋もれてしまったのか、どこか分かりませんでした。

  生家の焼け跡に、愛用していた母の鏡台の鏡が残っていたので、それを代わりに埋めて手を合わせました。

  八千代ちゃんのお墓にも参りました。平助君は、里に響き渡るくらいの大声で、幸せを誓ってくれました。

  父様は、毒が中和されて元に戻るまで、ここで一人で暮らすと言いますが、本当に一人きりです。

  心配なので、近くの村に住もうか、と平助君が言ってくれています。

  三人で相談して、決まったらまた知らせますね。

  原田さんとお腹の赤ちゃんと三人、元気でいることを祈っています。          千鶴


「平助らしいな、いいとこあんじゃねぇか」

「フフフ、新選組の仲間は皆いいとこだらけだよ? 勿論、左之助さんは別格だけどね!」

胡坐をかいた左之助さんの足の間にちょこんと座る。回された逞しい腕は、お腹を守るように私を抱えてる。

最近ずっとこんな調子なのは、ある事を待ちわびているから。そんなに構えても、いつくるか分からないのに。

クスクスと笑っていると、お腹がトンと動いた。

「!! おい、千穂! 今のか!? 動いたよな? 蹴ったよな? な!?」

興奮気味に言う左之助さんに、微笑みながら頷く。左之助さんが待っていたのは、そう……胎動だ。

「男か? 女か?」

「フフフ、出てくるまで分からないよ、そんなの。でも……やっと左之助さんにも分かったでしょ?

 ちゃんとここに居て、ちゃんと育ってるって」

「……ああ。ちゃんと居た。居るんだ。マジで……かなり……感動した。

 俺がいない時にばっかり動くって言うから、嫌われてんのかと思ったぞ、まったく。

 ……すごいな、女は。命ってこうやって作るんだな。…………はぁ、重いな」


私は、節くれだってゴツゴツした左之助さんの手に、自分の手を重ねて撫でた。

「左之助さんの手は、守る手だよ? 奪った命以上に、助けた命の方が多い、強くて優しい手。

 仲間を助けて、私を守ってくれる手。だから、とても綺麗だと思う。固くてゴツゴツした、綺麗な手」

左之助さんは私を強く抱き締め、肩口に顔を埋めた。包み込まれる温かさと心地よさに、目を瞑る。

「……んな事言ってくれんの、お前だけだ。敵を倒すことに躊躇いはなかったが……でも血塗れた手だ。

 お前に触れていいのか迷ったことも、何度もあった。汚い仕事ばっかしてきたのに、こんな綺麗なもんに

 触って汚しちまわねぇか、不安でな。でもその手を……綺麗、か。敵わねぇな、ったく。

 そんなお前を、競り勝って手に入れたんだ。大事にしないとばちが当たるな。……いい女だ」

トン、とまたお腹が蹴られる。

「ハハハ、こいつもそうだって返事してるぞ? いいな、反応があるってのは。喋ってる気分だ」

「クスクス、じゃあそういうことにしとく。そのいい女が選んだいい旦那様は、そろそろ稽古の時間じゃない?」

「っと、そうだな。行ってくる! 今度あいつら連れてくるから、上手いもん作ってやってくれ!」

立ち上がった左之助さんにチュッと口付けて、送り出した。


そうなんです。前職を生かした転職口が見付かりました。槍術と剣術の道場主。今からご出勤です。

槍を握って駆けていく左之助さんの後ろ姿を見送り、居間に戻って文の返事を書き出す。

こちらも順調です。私も左之助さんも元気です、と。





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