123 屯所で最後の夜

皆が出立し、人気のない……はずの屯所で出迎えてくれたのは、お千ちゃんと風間だった。

「おかえりなさい!!」

と元気良く言ってくれたのはお千ちゃんだけだったが。風間、ここに来るなら、去らなくてよかったんじゃない?

千鶴ちゃんが風間に礼を言うと、仏頂面のまま「何の事だ? 知らんな」と言う。だんだん性格分かってきたかも。

行灯の灯る部屋に戻るのは嬉しかった。きっと真っ暗だったら、寂しかっただろう。

あんなにお世話になったのに、お礼もお別れの挨拶も言えず、出発も見送れなかったな……。

近藤さんや土方さんや斎藤君の顔が浮かぶ。きっと北上の準備を始めているだろう、誠の武士達。

散ると知ってなお止められないのは、そんなことを望んでいないと知っているから。

私も頑張るね。心で呟いたのは、それだけ。彼らに負けないくらい、精一杯生きよう。



「千穂さんが無事で何よりだわ、綱道も目が覚めたみたいだし。大体、男鬼って馬鹿が多いのよ。

 強くて丈夫ってだけなのに、やたら自信過剰なのが多いし。だから人間に女をとられちゃうのよ」

「お千ちゃん、なんか辛辣。風間と喧嘩でもした? こないだは仲良さそうだったのに」

布団を並べた女子三人。ガールズトークに花が咲く。話題はやっぱり、向こうで集まる男性陣の事。

「一生に一度なんだから、祝言をどうしたいか、こっちにも考えがあるじゃない? なのに千景ったら、

 全部用意した、いつでも来い、だって! 信じられる!? 内掛けの柄一つだって好みがあるのに!」

あれ? 私の祝言仕切ったのって、お千ちゃんじゃなかったっけ? 選んでないよね、私?

「それは風間さんが早く来て欲しいからじゃないのかな? 私だったら、平助君が用意してくれたら嬉しいよ?」

うん、平助は千鶴ちゃんが言い出さないと、気付かなさそう。しかもあんまり知らなさそう。

「まあ……ね。江戸城開城の方向で話がまとまったから、もう人の争いから手を引くし。そろそろかな。

 あ、ごめんなさい、新選組は幕軍でまだ戦ってるのに……。でも、事実だから」

「うん、分かってる。たぶん戦っている彼らも、分かってて、でも曲げないの。譲れないんだよね。

 ところで、お千ちゃん。鬼の里ってどこにあるの? 前に言ってたでしょ? 今でもあの話、アリかな?」

私は、左之助さんと決めた話を伝えた。本当に!? と大喜びするお千ちゃんは、新居の間取りまで考え始める。

……風間、この子のこういうとこ、もっと分かって行動しないと。

私以上に目を輝かせて真剣に計画を立てるお千ちゃんに、苦笑しながらも全部お任せした。

左之助さんがいて、子供が元気に産まれたら、後はどうでもいいから。そう言ったら、惚気だとからかわれた。

「ところでさ、未来に私が生まれる為にも、ご先祖様にはちゃんと子作りしてもらいたいんだけど。

 いつか生まれる千鶴ちゃんと平助の子は、誰と結婚するんだろうね? 私の鬼の血って濃いんでしょ?

 案外、風間とお千ちゃんの子だったりして、フフフ。薄くなってないって、そういう交配が続くからでしょ?」

ちょっとリアルなオトナの話に、顔を真っ赤にするのは千鶴ちゃん。仕方ない、恋仲になった途端戦が始まって、

逃げた先で親と再会して。甘いムードになる機会も余裕もなかったもんね。

明日から、平助と二人きりの旅路。命の危機が迫るまで告白出来なかった平助が、次に進めるかしら?

いらぬお世話を一人想像し、クスクス笑った。もっと赤くなった千鶴ちゃんをからかいながら。



一方、男三人集まっても、やはり話はそちらに進むようで。未婚の二人の、人知れぬ忍耐がここで明かされます。

「風間、千穂と鬼の里に行く事になった。よろしく頼む。クック、まさかお前とこんな話するなんてな。

 変われば変わるもんだ。どころで風間んとこはどうなんだ? ずっと一緒にいるのに祝言挙げねぇと、先に出来ちまうぞ?」

「フン、犬猫じゃあるまいし。……と言いたいところだが。…………釘を刺された」

この男、機嫌良く大笑いする事はあるんだろうか? 左之助は仏頂面の風間が、更に眉間に皺を寄せたのを見て苦笑した。

「誰に何をだよ?」

「……菊に。祝言の前に子が出来ては千姫様の恥になるので、祝言まで自重しろ、と。名家ゆえ、というやつだ。

 だから早く祝言をと準備したら、今度は千姫が拗ねた。何が不服だ? さっぱり分からん」

いや、拗ねてんのはお前だろ? 平助と左之助は盛大に突っ込みたかったが控えた。触らぬ鬼に祟りなし、だ。

「まぁ、一緒にいるのに手が出せねぇのは辛いわな。平助、お前はどうなんだよ? やり方分かってんのかぁ?」

「ば、馬鹿にするなよ! そんぐらい知ってるって! 今まではそれどころじゃなかったしさ。

 それに……もし、泣かれたり今はまだそんな事って言われたりしたら、ずっと一緒に旅すんのに気まずいじゃん?」

ああ、明日から、平助は悶々とした旅路を行くことになりそうだ。……頑張れるか? 俺なら無理だ。



千鶴ちゃんと二人だったら、泣いて別れを惜しむ晩になっただろう。でも、そうならなくてよかった。

もっと幸せになる為に旅立つんだから。今生の別れじゃないんだから。また会おうねって笑いたい。


平助と二人だったら、離隊に後悔はないが、新選組への思いで沈んでいただろう。だが風間がいたから。

もう自分達は違う道へ進み始めたんだって、はっきり分かった。戦が終わって奴らに会えたら、そん時にでも文句を聞こう。





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