121 見送る背中

「フン、皆で抱き合い大団円か。藤堂とか言ったな。……ハァ、原田といい、お前といい、

 なんで人間ばかりが鬼の一族に加わるのか。もっと他にいい男鬼がいるだろうに。

 まぁ俺には千姫がいるから、残りは大したことないんだがな。新選組の田舎者よりはマシだ」

お堂の入り口に、風間がいた。え、今更!? というよりそのお言葉、何様?!

「おいおい、言ってくれるじゃねぇか。相変わらず辛気臭い顔しやがって。

 ……それで、どうする気なんだ? ただ様子を見に来たってわけじゃないんだろ?」

左之助さんが風間を見た後、チラッと綱道さんを見た。用件は……変若水を飲んだ羅刹を……。

綱道さんが青ざめ、千鶴ちゃんが庇うように風間を睨む。左之助さんは……え? 笑ってる?

「ハァ、にやにやするな、原田。……綱道、羅刹は新選組の奴らが殲滅した。後で礼を言っておけ。

 ここに来た時点でウヨウヨいたら、お前もまとめて斬り捨ててやったんだが。……フン、遅かったようだな。

 医者の見立てで……治るか、その体?」

殺処分は免れた……内心ホッとする。左之助さん、風間の言うこと分かってたんだね。

「私は、変若水を薄めるのに、雪村の里の湧き水を使いました。あの水には、変若水の毒を中和する力がある。

 一応鬼の端くれです。人よりは早く、治まるでしょう。……処罰は受けます。言って下さい」

「雪村綱道、変若水及び羅刹製造の罪で、雪村の地に蟄居を言い渡す。期限は……治るまでだ」

「っ!風間様!! ……寛大なお心、感謝いたします。ありがとうございます。

 ……千鶴、藤堂君、そういうわけだ。時折文をくれると嬉しい。一緒に暮らすのは治ってからにしよう」

「あの……後でどうするかは置いておいて、一度私も里に行きたいの。

 父と母をちゃんと弔いたいし……八千代ちゃんのお墓にも手を合わせたい。いい?」

「あ、それ俺も! ちゃんと千鶴の実のご両親にも挨拶しとかないとな。幸せになるって宣言しに行くよ!

 それに、千鶴も娘なんだから、八千代って子も姉妹みたいなもんだろ? 報告しねぇとな」

「二人とも! ……ありがとう。本当にありがとう」

綱道さんの目の端に涙が光った。



皆でお堂を出ると、外はすっかり暗くなっていた。境内は音もなく静かだった。

お礼を言おうと振り返って風間を見る。つもりが。もうそこに姿はなかった。

根は……いい奴なのよね、お千ちゃんの言う通り。クスッと笑う私に、左之助さんも頷く。

「もうちょっと言い方を直せば、絶対友達増えるのにね」

「ククク、だな。……っ!! 新八! 大丈夫か!?」

石灯籠にもたれて座り込む新八さんに、左之助さんが走り寄る。もちろん、私達も。

「ハァッハァッ、だ、大丈夫な訳あるかぁっ! どんだけ斬ったと思ってんだ、ったく。

 皆して丸く納まりましたって顔で出てきやがって、ハァ。長州と新選組に分けて遺体積んでおいたんだ、

 ありがたく思えよ? 新選組の方は寿命で灰になって飛んでっちまったのも多かったがな。

 ……山南さんもだ。千穂ちゃんに、これやるよ。あの人の眼鏡と、手拭いだ。

 貰ったもん返すのは心苦しいけどよ、懐に入ってたんだから形見には違いねぇだろ?」

私はそれを受け取ると、眼鏡だけを貰い、手拭いを新八さんに渡した。

「じゃあ、形見分け! 新八さん、血の気が多いし無茶するから。懐で山南さんの目が光ってたら、

 なんかの時歯止めが効いてやり過ぎないかも、フフフ。本当にありがとう。これからも御武運を」

「ああ、そのうち遊びに行ってやるよ。左之は……千穂ちゃんに熨斗つけてくれてやる。

 泣かされたら言えよ? 俺が叩きのめしに行ってやっから」

「誰が泣かせるかよ! ……新八、元気でな。充分戦ったって満足したら、お前も嫁さん探せよ?

 いいもんだぞ、結婚は。なにより、夜が寂しくねぇ、っ痛! 千穂、悪かったって!」

静かだった境内に、笑い声が響いた。別れが辛くならないように、少しでも明るく。

最後まで茶化す左之助さんの、さりげない気遣いが伝わった。

新八さんは、少しだけ寂しそうな表情を見せた後、いつもの笑顔に戻った。

「んじゃ、俺は行くわ! 靖兵隊の奴らが待ってっからよ。今度会う時は俺の武勇伝を聞かせてやるよ、じゃあな!!」

立ち上がり、背を向けて歩いていく。ありがとう、新八さん。絶対生きて、また会おうね。

「新八っつぁん、またな! 俺らも北に向かうから、どっかで会ったら飲もうな!!」

「おぅ! 平助も元気でな! 千鶴ちゃんを大事にしろよ!」

大声で返事した新八さんの姿は、どんどん小さくなり、やがて見えなくなった。





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