118 境内の闘い

寛永寺の境内。お堂の周囲を木陰で警護する長州羅刹兵達がいた。

そこに山南の指揮の下、羅刹隊士が突撃する。

「銃を持つ者を先に倒しなさい! 動き続ければ敵は狙いを定められません!」

 きっと後から来るであろう者達の為に。銃と羅刹を減らしましょう。ですが……血の臭い、きついですね。

農民上がりの兵士に変若水を飲ませたところで、新選組で淘汰され生き残った羅刹隊士に敵う訳がない。

なにより自制心が。長州側は血の臭いに負け、やがて銃も刀も捨て、

敵味方なく倒れた者に襲い掛かかった。獣のように。

こうなっては剣技も戦法もない。互いに食らい合う人外の化け物でしかない。

おぞましい地獄絵に眉をしかめた時、後ろから声が掛かった。

「ひでぇ有様だな、共食いかよ。山南さんも来てたのか、待たせたな!

 ここは俺らが引き受けた、お前ら行けぇっ!」

「遅いですよ! 早くお堂に!」

新八と山南が切り開いた道を、左之助達が駆け抜ける。目指すは千穂と……そして綱道。

「山南さんも人が悪いぜ、先においしいとこ取っちまうなんてよっ! クッ!」

「待機してるのに飽きてしまいましてねっ! ハァッ!」

飛び掛かってくる化け物を剣で防ぎ、切っ先で心臓を狙う。

お互い背中を預ける機会は今までなかったが、神道無念流と北辰一刀流の免許皆伝者同士だ。

人を斬るのを躊躇わないだけの実践経験と、一流の剣技が、羅刹を次々と地に伏していく。

やがて、残りの羅刹も数えれえるほどまで減ってきた。だが……


「はぁ……はぁ……永倉君、申し訳ない。……限界が……来た……ようです」

「山南さん! あんたっ!!」

その姿が白髪赤眼に変貌しても、狂うことなく闘い続けたが…………ついに終わりの時が来た。

地面に崩れ落ちるように倒れた山南に、永倉が駆け寄る。

「皆と……歩んで……幸せで、した……。君が……後世に伝えて下、さい。

 馬鹿の集まる……楽しいところ、だっ……た…………と……」

山南の体は端から崩れて灰となり、最期の言葉を残してその唇も消え去った。

愛用した眼鏡と衣服だけが残り、風に飛ばされる灰をみて永倉は驚愕した。

これが……羅刹の最期!?

袂から覗いた手拭いで眼鏡を包み、懐にしまうと歯を食いしばった。

分かったよ、あんたも俺も大馬鹿だが、こんな化けもん作るの止めて、やっぱ正解だ。

後は俺が引き受けた! 一人残らず地獄へ送り届けてやるよっ!!

永倉の全身に熱い血が滾り、逞しい腕で剣を振り上げた。





[ 119/156 ]

   

頁一覧

章一覧

←MAIN


人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -