9 義姉妹

初めての袴は着物より寛げて楽だけど、初めてのサラシは予想以上に苦しくて。

中世に貴族の女性が着けたコルセットもこんなに苦しかったのかな、なんて想像した。

千鶴ちゃんは「ちょっと羨ましいです」って言ってくれたけど。

発育途上の胸をこんなに潰して形が悪くならないか、自分の若い体が心配になりました。


お昼には斎藤君がお膳を届けてくれて、暖房のない部屋で冷え切った体を、味噌汁が温めてくれた。

聞けば今は文久三年十二月。年の瀬なのはあちらと同じみたい。

助手席に置いてきたカシミアのコートが今すぐ欲しかった。和室って寒い。和装って寒いよ。


「ねえ千鶴ちゃん、朝は本当にごめんね。あと、これからも。相部屋、嫌じゃなかった?」

広間じゃ話せなかったけど、気になっていた。いきなり同居って、迷惑だよね? 普通。

ところが千鶴ちゃんは思いっきり首を横に振ってくれた。

「そんなわけないです! 私も来たばっかりで! よく知らないし男の人ばっかりで!

 こ、怖い訳じゃないんですけど、不安で。とても良くして下さるんですけど、寂しくて。

 あの、千穂さんみたいな姉様が来てくれて本当に嬉しいです!

 もちろん帰りたいのは分かってるんですが、こちらにいる間は仲良くしてくれたら、

 本当に心強くて嬉しいなって。勝手なんですけど……」

顔も耳も真っ赤。

あぁ……今、なんだか物凄くあったかいモノ貰っちゃった。

久しぶりに、本当に素直でまっすぐな心。

色々あって擦り切れそうだった私の心には勿体無いくらい、あったかい気持ち。

「ありがとうね。千鶴ちゃんはいい子だね。じゃあここにいる間は私がお姉さんってことで。

 いつでも抱きしめてあげるし、泣きたい時は胸貸すよ? 言えないことは無理に聞かないし、

 話せることはいくらでも聞いてあげる! だから……私も妹だと思っていい?」

コクコクと頷く顔はもうこれ以上ないくらい真っ赤で。

大きな瞳のふちには、今にも零れ落ちそうな涙が留まっていた。

軽く背中をさすってあげると、恥ずかしそうにニッコリ笑う。花が咲くように。

どんな事情か知らないけれど、こんなに可愛い笑顔を隠すなんて酷だよね。


「ククッ、僕の姉さんだったら口が裂けても言わないような台詞だな。

 麗しい姉妹愛を邪魔して悪いけど、盗み聞きじゃないよ? 聞こえただけ。どっちもお人好しだね」

あ、忘れてた、監視。さすがにクサかったかな〜、ちょっと恥ずかしい。

でも千鶴ちゃんはもっと恥ずかしかったみたいで、

「聞いてらっしゃったんですか!」

と口をパクパクして慌てふためいている。いいじゃん、聞かれて困る話なんてしてないし?

そこに斎藤君が私たちの夕餉を持って登場。

「総司、交代だ、飯に行ってこい。雪村、聞いて困る話だったのか? 邪魔せぬよう控えていたんだが」

「さ、斎藤さんも?!」

小首をかしげて、真面目にさっきの会話を頭の中で反芻している様子。

天然か? そうなの? そっちだったのか!


思いがけず飛ばされた江戸時代で、久しぶりに浮上した私の心。


もう、たくさん泣いた後だったから。

「あちらでの別れ」より「こちらでの出会い」は温かい。





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