8 ご挨拶
保護が決まり詮議が終了すると、近藤さん、土方さん、山南さん、井上さんは退室した。
山崎さんはいつの間にか居なくなっていた。忍者みたい。
すると見計らったように、残りのメンズが千穂の周りに寄ってきた。
「永倉新八だ、手荒な真似してすまなかったな。まだよく飲み込めねぇけど、とにかく一緒に暮らすんだ。
よろしくな、千穂ちゃん」
二カッ笑って挨拶してくれた。押さえ込まれたときの力強さは半端ではなかったが、そうでないと幹部は務まらないだろう。
ホント、熊みたいにがっしりしてる。
「こちらこそよろしくお願いします、新八さん。出会いが出会いですから、気にしないで下さい」
笑顔で返すと、パチクリ。千穂を凝視したまま顔だけがどんどん赤くなってゆく。
なんか、可愛いかも。鼻の頭をつつきたくなる感じ?
「固まってんじゃねぇよ新八! 俺は原田左之助だ。ん〜、外見は千穂ちゃんだけど、中身は千穂さんか。どうすっかな。
千穂でいいか? 呼び捨てにされんのは嫌か?」
嫌なはずないでしょ、覗き込まれるとこっちが赤くなりそうなイケメンだし。
赤毛の男改め原田左之助さん。クラクラするような色気と優しい瞳は、男性不信も吹き飛ばしてくれそうだ。
……きっとモテるんだろうな。
「ええ、千穂で結構です。年も近いですし。元は、ですけど、フフフ。
私も左之さんって呼ばせて貰いますね、ご厄介になります」
「敬語もなし、だ。んじゃ新八、稽古行くぞ! またな」
大きな手で私の頭をくしゃりと撫でると、新八さんと部屋を出て行った。
「俺、藤堂平助! 平助でいいよ。中身二十六なんだろ? 分かんねぇ事あったら聞いてくれな。
あ〜でも頭じゃ分かってんだけどさ、どう見たって歳そんな変わんねぇし。俺も千穂でいいか? 年上なんだろうけどさ」
鼻の頭を掻いて首を捻る様は、本当にまだ少年といった感じだ。皆の弟?
「もちろんいいよ、よろしくね平助。多分わからないことだらけだから、色々教えてね!」
「任せとけよ! ほんじゃ、俺も巡察行ってくっから。後でな!」
元気に手を振り退室した。垣根のない子がいてよかった。
「斎藤一だ。余計な詮索はしないで欲しいが、過剰な心配も無用だ。
あんたの事は新選組が保護すると決まった。要る物があれば声を掛けてくれ。
雪村と同様、あんたにも男のなりをしてもらう。着替えを一式、後で届ける」
一方的に言うと返事を待たずに出て行った。事務連絡みたい。警戒してる? ま、そりゃそうか。
着替えを貸してもらえるのは有難い。自分の格好が浮いているのは、自覚してるから。
黒い着物に白い襟巻き。まるで流浪の侍って感じだったな。
「はじめ君はいつもああだから、気にしなくていいよ。沖田総司、総司でいい。
千穂ちゃん、いい子だから大人しくしててね。近藤さんが決めたから居てもいいけど。
居なくていいのも事実だし。あと……着替える前にもう一度谷間、見せて?」
翡翠色の瞳が楽しそうにキラキラしてる。でも、目の奥は笑っていない。
どの言葉もある意味正直だ。何かあれば、一番躊躇無く私を切り捨てるだろう。
沖田総司の近藤勇への敬愛は、有名だもんね。
にしても、覗き込めば開襟シャツだし谷間ぐらい見えそうなもんだけど。頼むか? 普通。
「総司ね、了解。大人しくしてるよ、オトナだし。谷間に限らず何でもね、無料は初回限定です!
有料でいいならどうぞ? 触っちゃダメだけどね」
どうする? と小首を傾げるとクスクス笑いながら、
「やっぱり中身は二十六だね。うん、面白い。また今度でいいよ。さ、部屋に行こう」
千鶴ちゃんと私に、来るよう促す。監視役かな。
変な事したら切り捨てられそうだけど、危険な人が来てもしっかり切り捨ててくれそう。
怖いけど心強い。諸刃の剣、だね。
総司に従い、千鶴ちゃんの部屋に向かう。
後ろからチョコチョコ小股で付いて来る彼女は男装してるつもりらしいけど……。
どうやったら男の子に見えるんだろう? 年頃のわりにほとんど喋らない。
少し怯えた風なのは私のせい? それとも何か……別の?
男所帯に隠された花一輪。
事情はおいおい聞けるだろう。今は必要ないし、聞くべきじゃない。
部屋についてすぐ、斎藤君が着る物一式を届けてくれた。
着付けは出来るが袴はさすがに初めてなので、千鶴ちゃんにお願いした。
朝のまま開けっ放しだった押入れの上段には、何も無かった。
私が来た痕跡も、帰る道も。
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