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沖田は誰がどう見ても立派な成人男性だ。

なのに子供と遊ぶ姿や甘い菓子を好む様子から、勝手に女嫌いだと噂されている。

が、噂ほどあてにならないものはない。現にこうやって好きな女性と非番にしっかり楽しんでいるのだから。

二つ年上の梗耶は島原に身を置く芸妓で、三味線も少し触るが得手は踊りだ。

一差し舞ってはおいとまし、一晩で幾つかの座敷を回る。

そんな彼女に言い寄る客は多いがとりわけ熱心なのが役者連中で、沖田は決して芝居小屋へは近づけさせようとしなかった。

……君は僕だけを見ていればいい。君の素顔は僕だけが知っていたいんだ。

会う度に気持ちが膨らみ、顔を見るだけで嬉しくて、腕に納めるとホッとする。

沖田はそんな独占欲を隠すことなく態度で示し、梗耶を喜ばせたり困らせたりしていた。


「はぁ、意地張ってないでもう僕のものになっちゃいなよ。梗耶さんを貰い受けるぐらいの金子なら用意できるのに」

「馬鹿ねぇ、あと一年もすれば借りたお金も返し終わるし、今更こんな年増に身請け金を払うなんて勿体無いわよ。

 それに……フフ、こうやってたまに会うから値打ちがあるように思うのかもよ?」

「クスクス、梗耶さんが年増なら他の女は婆さんだ。それに……値打ちならもう充分知ってる。

 だから焦るんだ。もっといい男が現れて横から攫っていくんじゃないかってね」

「攫われたらどうする?」

「勿論――」

奪われる前に僕が攫う。

そう言い終わった唇はそのまま梗耶の口元に重なり、甘い吐息が漏れるまで舌でその口腔を煽り続けた。



一刻後。西日で暑い部屋の中、梗耶は眠ってしまった沖田に団扇で風を送ってやっていた。

横向きに寝転び自分の膝に頭を乗せて眠る姿は、大きな子供のようだ。

生まれつきなのか少し色素の薄い髪が団扇の風で微かに揺れる。

大事な刀を脇に置き安心したように寝息をたてる様子に、信頼されている事をひしひしと感じた。

まだ外で会うようになって半年。

でももうきっと彼なしの暮らしなんて考えられない。

人斬りだと悪し様に言われようが町中から煙たがられようが、そんなのどうだっていい。

……だってこんなに優しい人なんだもの。ねぇ、そんな貴方を知ってるのは私だけだって思っていい?

もっと好きになってずっと側に居たいって思ってるから、一年経ったら迎えに来てね。

貴方を「旦那です」って紹介出来る日が早く来て欲しい。

でもお金で落籍されたなんて思われたくないもの。もうちょっとだけ待って。

梗耶は団扇を止めて少し身を屈め、沖田の額にそっと口付けた。

どうか夢の中にも私が出てきますように。

そう願うだけで幸せが全身に広がり、胸が熱くなる。


再び動き出した団扇が沖田にぬるい風を繰り返し繰り返し送り届ける。

手を動かしている梗耶は、大切な人の寝姿を眺めながらずっと微笑んでいた。




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