たった2文字


 あのさ、いい加減…理解れって。
 ―…こんなこと、一度しか言わないからな。


 他愛のないことで盛り上がって、他愛のないことで喧嘩して。
 そして、他愛のないことで笑い合う日々。
 そんな日々や時間がすごく幸せで、当たり前のようにすら思え始めてきていたこの頃。
 それは、突然言われた。
「今日の放課後ね…告白されたんだ、私」
 思わず持っていたコップを落としそうになる。それは、奏が学校に忘れたという参考書を取りに来た時に起こったことだった。
 最近はよくお互いの話もしていたけれど…まさかこんな話を切り出されるとは思ってもみなかった。
「…は!?」
 動揺は隠し切れなかった。当たり前だ。こんな重大事件が起こっていて、冷静でいろと言うほうがおかしい。
 だって、俺は奏のことが好きなんだから。

 ていうか!誰だよ、そんなこと言った奴は!

 とりあえず、落ち着こうと一度息をつく。その後、ぽつりぽつりと話す彼女の言葉を一つも逃さぬよう聞いた。
 告白相手はクラスメイトの柿崎。成績上々、運動もまあまあ。笑顔が似合うムードメーカーのような存在で良い奴なんだよなぁ…って。やばくね?俺。
「そ、それで?奏…なんて答えたんだよ?」
「う…それが、まだ返事してない」
 少し気まずそうな顔をしながら、どこかその頬は赤くなっているようだった。
「雅弥くんは…どう思う?」
 ちょっと意外な質問に、思わず奏の顔を見てしまう。
 ばっちり視線が交差する。無性に恥ずかしくなったのだけれど、なぜか視線を逸らすことが出来なかった。
 いや、違う。逸らしたくなかったんだ。
「俺は…」
 目を見たまま話し出す。彼女も逸らすことなく、こちらを見ていた。

 ―…ここで、言わなかったら後悔する。

 ふと頭を過ぎった思い。その思いに突き動かされるがまま、言葉を発した。
「確かに柿崎は良い奴だと思うけれど。…嫌、かな」
「…嫌?」
 その言葉に反応し、不思議な顔をする奏。
「そう。俺は嫌だって思った」
 今度はさっきよりもはっきり伝える。しっかり伝わるように…。
「え?それって…?」
「だから、そのまんまの意味だよ」
 少しぶっきらぼうに言う。本当はもっと素直に言えたらいいんだけれど…これが俺の限界だ。
「そのまんま?」
 しかし、確信を持てないのか、奏は少し赤い顔をしながらもまだはっきりわかっていないようだった。

 …あぁ、もう。

「あのさ…いい加減、わかれって。お前…」
 そう言って、彼女の目の前に立つ。少し背の低い彼女はちょうど見上げるような状態。
「え…?」
「あぁ、もうっ。いいか?一度しか言わねーからな!こんなこと!」



「お前のことが、好きだって言ってんのっ」
 そして、ぎゅっと彼女を抱きしめた。
 それは照れ隠しと…誰にも渡したくないっていう独占欲の入り混じった、俺の精一杯の気持ちの表れ。

 その後、暫くお互い無言で顔を赤くしていたのは言うまでもないことだった。
 
 すごくシンプルなのに、なかなか伝えられないたった2文字
 なぁ、俺と一緒に恋に落ちてくれるか


by Masaya.S


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