かわいいひと


 ―全く、あなたという人は…
  どうしてこんなにも…僕を喜ばせることをするんですか?


 コンコン…

 小さくて控えめなノック音が耳に飛び込んできた。
「はい、どうぞ」
 それはいつものやり取り。きっと、このノックは彼女のものだから。
「修一お兄ちゃん、今…大丈夫?」
「えぇ、大丈夫ですよ」
 椅子をクルッを回転させて、ドアの方を見る。そこにはすでに部屋に入ってきた彼女の姿があった。
 その姿を見るたび、笑顔になるのはどうしてだろう?
「どうしました?」
「…うーん、実は特に用事ないんだ」
 ごめんねと言いながら、いたずらっぽく笑う彼女。
「…っ」
 その姿につい目を奪われる。ついでに頬も心なしか熱くなるんだ。
「うん?どうかした?少し顔赤いけれど、熱?体調悪い?」
 心配そうに見つめる彼女の視線に耐えられなくなって、手を口元にやって、ふっと顔を背ける。
 そして、大きく息をついてからちらっと彼女を見て手招き。
「奏…ちょっと来て」
「?」
 言われるがまま。そして、そのまま彼女は自分の腕の中へ。
 ぐっと腕を掴んで引き寄せて。顔が見えないくらいきつく抱きしめた。
「わっ!な、どうしたの!?修一おにい…」
「…今は、『お兄ちゃん』じゃないだろ?」
「―っっ」
 きっと彼女の顔は真っ赤だろう。
 でも、それで良い。それが良い。
 黙りこんだ彼女の耳元にそっと小さな声で呟く。
「…あの顔は…反則。可愛すぎるから」
 吐息が掛かって、彼女の身体が少し震える。それでも、抱きしめた身体は離さない。
「他の人に見せたら、お仕置きな?」
「お仕置き!?」
「そ。例えば…」



 そう言って、甘いお仕置き。すっと口元をそのまま耳へ。そこから甘噛み。奏は耳が弱いから。
「きゃっ。やだ、くすぐったい…!」
「わかった?」
「わ、わかったっ」
 ぱっと離して彼女の真っ赤な顔を覗き込む。彼女は恥ずかしそうに少し俯きながらこちらを見ていた。
「いじわる…」
「いじわるで結構」
「…でも」
「うん?」
「他の人の前じゃ…きっと出来ないよ?」
 そう言う彼女に今度はこっちが赤くなる番。

 あぁ、全く。
 どうして、こんなにもこの人は、自分を喜ばせることを知っているんだろう。

「あなたには適いませんね」
 そう言って、暫くの間二人で笑い合った。


 彼女は俺の、愛しくてかわいいひと
 いつまでもいつまでも、一緒に恋に落ちていよう


by Syuichi.S


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