jealousy
「奏!!」
クラスメイトと雑談で盛り上がっていた放課後。
私を呼ぶ声に振り向いてみると、そこにいたのは。
「…蓮さん?」
「もう授業は終わったぞ。奏も帰るだろう?」
笑顔でブンブンと手を振りながら近づいてきた蓮さんが、ためらうことなく私の手を取った。
「ちょ、ちょっと蓮さん、私まだ友達とお喋りしたいのに…」
「そうか、俺と一緒に帰ることができて嬉しいのか!可愛いやつだな」
……って、聞いてないし!
どこまでもマイペースな蓮さんは、私の手を引いて、ずんずんと歩きだしてしまう。
「あ、荷物もまだ…蓮さん、待ってくださいってば!」
「ははは、奏、俺と一緒だからといって、照れることはないんだぞ。もっと堂々としているがいい」
「そうじゃなくて……きゃッ!」
蓮さんに引っ張られるまま、教室から廊下にまで出てしまったところで。
ふいに、反対方向から腕を掴まれた。
「……ずいぶん賑やかですね」
「修一お兄ちゃ…先生!」
そこにいたのは、少し呆れたような顔をした修一お兄ちゃんで。
もう放課後だというのに、ピシッと隙のないスーツ姿に、思わず見とれてしまう。
そんな私に優しく微笑むと、さりげない動作で、私の手を蓮さんから離してくれた。
「修一先輩!おつかれさまです」
修一お兄ちゃんの顔を見るなり、ピッと姿勢を正す蓮さん。
「まったく…こんな所で騒ぐのはどうかと思いますよ。それに…」
ふぅ、と大きくため息をひとつ。
「蓮、まだ来週の授業の指導案が出ていませんよ?生徒と遊んでいる場合ではないと思いますが」
修一お兄ちゃんの言葉に、蓮さんがハッと表情を変える。
「す、すみません!すぐに用意します!」
「…あなたはただでさえ授業が脱線してばかりなんですから。キッチリと内容を練るように」
「う……それは言わないでください、修一先輩///」
赤くなって俯いてしまった蓮さんが、子供みたいでちょっと可愛くて。
つい笑ってしまった私に気付いたのか、蓮さんはますます慌てたように、修一お兄ちゃんにペコリとお辞儀をすると去って行ってしまった。
「…さて、奏さん」
「?」
「あなたはこれを、社会科準備室まで持ってきてください」
「え?」
修一お兄ちゃんは、手に持っていたプリントの束を私に手渡すと、ニッコリと微笑んだ。
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