可愛い君に
俺はカバンの中から小さなケースを取り出す。
中身は、ロココフラワーにダイヤをちりばめたデザインのネックレス。
何かをプレゼントすると「勿体ない」ってやんわりと怒られるから、最近はプレゼントを我慢していたけれど。
偶然見かけたアンティークショップに飾られていたそれを見た時、どうしても奏にプレゼントしたくて買ってしまった。
「喜んでくれるかな…」
『コンコンコン』
呟いた俺の声に重なって、ドアがノックされる。
「は〜いっ!」
慌ててネックレスを隠してドアを開けると、奏が立っていた。
「お兄ちゃん、あの…もし時間があればテラスで一緒にお茶しない?」
遠慮がちに言う奏に、俺は笑顔を返す。
「もちろん!
すぐ追いかけるから先に行っていてくれる?」
「うん、じゃあ先に行ってるね」
嬉しそうな笑顔を見せた奏を見送って、俺はネックレスをケースに戻してからポケットに忍ばせてテラスへと向かった。
今年は例年より秋が早く、日差しが随分穏やかになっている。
テラスには心地よい風が吹いて、奏の髪を揺らしていた。
「ん〜っ、気持ちいいっ!
あ、今日は私の好きなチェリータルトだっ!」
くるくると表情の変わる奏を見て小さく笑った俺に、奏が首を傾げる。
「…私、何かおかしかった?」
「…奏は子犬みたいだね」
そう答えると、奏は頬を染めて少し拗ねた顔を見せる。
「えぇっ、それって褒めてるの?」
「褒めてるよ!
ねぇ、要さんもそう思うよね?」
「はい。 ですが、お嬢様の愛くるしさには子犬も適いません」
俺の言葉を拾って、要さんも奏に微笑む。
「えぇっ、御堂さんまで!?
2人にそう言われると何か照れちゃうな…///」
照れながら紅茶をこくこくと飲む奏の仕草が可愛くて、つい笑ってしまう。
「あ、笑った!
もう…からかったのね!?」
ぷくっと頬を膨らませる奏に、俺は笑顔を返す。
「からかってないよ?
本当に可愛いと思ってる」
「お兄ちゃん…///」
見つめ合った俺達の後ろから、気まずそうな声が聞こえる。
「…紅茶のお代わりをご用意いたしますので、私は一度席を外させて頂きます」
そう一礼すると、要さんは屋敷に戻っていった。
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