Which do you choose?


ここは、西園寺家のある夜の食堂。
執事である御堂と柊が、夕食の配膳にいそしんでいた。

専属シェフが丹精こめて用意した料理が、次々と食卓に並べられていく。

兄弟たちにはあらかじめ声をかけてあるので、もうそろそろ皆が集まってくるはず・・・
そして、真っ先にやってきたのは、西園寺家の唯一の令嬢、奏であった。

育ち盛りで食欲旺盛、美味しいものに目がない彼女は、いつもにこにこと楽しそうに食堂へ足を踏み入れるのだが・・・

今夜は、どうも様子が違った。

顔色が悪く、目線が上を向かない。
背中を丸めているので、小さな身体が更に一回り、小さく見える。

執事ふたりは、思わず配膳の手を止め、そんな彼女をまじまじと見つめ・・・無言で、顔を見合わせた。

(奏お嬢様・・・一体、どうされたのでしょうね・・・?)

(ふっ・・・テストの点が悪かったとか、1s太ったとか、そんなところでございましょう)

(ちょっと! 柊さん! な、なんてことを!)

(・・・私は、これまでの例から推察したまでですが)

(・・・ま、まぁ・・・これまでの例から言ったらそうですけれども・・・もしかしたら、お体の具合でも・・・)

(ああ、月に一度のアレですか)

(ひ、ひいらぎさんっ!)

無言のうちに、そこまでの会話が為されたかどうかは・・・まぁさておき。

執事ふたりが見守る中、奏は自分の席に着くと、深々とため息をついた。

このため息の深さは・・・
赤点だとかダイエットだとか、そういう次元の問題ではなさそうだが・・・

食事のときに、兄弟たちとの会話でその理由が明かされるかもしれない。

御堂と柊は、あえて声をかけずに、とりあえず食事の支度を終えた。



やがて、食堂には次々と兄弟が顔を見せ始める。

「今夜は・・・おや、中華ですか? いい匂いがしますね」

仕事を切り上げたところだったのか、シャツの胸ポケットにメガネを引っかけたままの長男・修一が顔を出せば。

奏はちらりとその兄を見遣って、ため息をつく。

「・・・まだ、みんな揃ってないの? だったら、もうしばらく、ここで本読んでてもいい?」

未練がましく本に指をはさんだ三男・雅季が、メガネの横からこめかみをマッサージしながら顔を出せば。

奏は、頬杖をついたままその兄を見上げて、またため息をつく。

「やったぁ、中華だ! ってことはもちろん、俺の大好きなイベリコ豚の酢豚もあるよね?」

小躍りせんばかりの軽い足取りでやってきたのは、金色の髪をなびかせる次男・裕次。

奏は、その輝く笑顔を見ても、表情ひとつ変えずにため息をつく。

「あー、腹減った! 今日は調子がよくってさー。つい、いつもよりも2km多く走っちまった!」

シャワーを浴びたばかりなのか、濡れたままの髪からトニックシャンプーの香りを漂わせるのは、四男・雅弥。

奏は、その爽やかな香りを嗅いでも、全く興味を示さずにため息をつく。

「ごめん、絵を描くのに夢中になってて・・・僕が、一番最後?」

頬に絵の具をつけたままの五男・瞬が食堂に駆け込んできて・・・
これで西園寺家の普段のメンバーが勢ぞろい。

いつもなら、西園寺家のアイドル・奏を中心に楽しい夕食が始まるところだが。

しかし、彼女は・・・
ぐるりと兄弟を見回して、改めて大きなため息をついたのだった。

我慢ならないと言った様子で口火を切ったのは、執事の柊。

「お嬢様! お食事の前に、そのようにため息をつかれると・・・せっかくのお食事が、不味くなります!」

それを機に、怪訝そうに奏の様子を伺っていた他の面々も、一斉に口を開く。

「柊さん・・・! 西園寺家のご令嬢に、なんてことを!」

「奏さん、何かあったのですか? 顔色も、あまりよくありませんね」

「もしかして・・・またダイエットみたいな馬鹿なこと、してるんじゃないよね・・・?」

「ええっ、ダイエット!? そんなことしなくても大丈夫! 俺の奏ちゃんは、いつだって世界で一番可愛いよ!」

「何言ってんだよバカ兄貴! 奏のため息より兄貴のそのセリフのほうが、メシが不味くなるっつーの!」

「・・・うちのシェフのごはんは、いつも美味しいよ。ほら、奏お姉ちゃん、元気出して?」

口々に気遣う兄弟たちに、目をぱちくりとさせた奏。
自分の様子がおかしくなっていたことに、気づいていなかったようだ。

彼女は、弱々しく微笑むと、ぺこんと頭を下げた。

「ごめんねみんな、心配かけて。ちょっと、悩んでることがあって・・・」

か細い声でうつむいたまま言う奏に、食堂の雰囲気が張りつめる。


それは一大事!

彼女に、一体どんな悩みが!?


彼女の言葉に、兄弟たち+執事ふたりは、食事そっちのけで奏の言葉の続きに耳を澄ませたのだった。


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