甘いひとときを共に


『奏、少し休憩していこうか』

よく晴れた昼下がり

私は御堂さんと一緒に朝早くから久々に二人っきりのデートを楽しんでいる

朝食を外で簡単に済ませてから郊外でショッピングしたり、ちょっとした雑貨やリネンとか

洋服とかも見てまわっていて、とっても楽しい

朝からアチコチ歩いていると楽しさも手伝ってそう思わなかったけど

イスに座った時にそこで実感する足の疲労感…

ジーンとくる足の裏とか、ふくらはぎとかが悲鳴あげているのがわかる

要さんって嫌な顔ひとつしないから楽しすぎて

休むことをすっかり忘れていたわ

少し反省しながらカウンターでカップを載せたトレーを受け取る要さんに視線を移した



『奏、ココアとドーナツにしたんだけど…どうかな?』

飲み口が小さい、蓋のついた温かいココアとシンプルな形のドーナツにチョコレートが少しだけコーティングされているもの

疲れた時は甘いものがいいって昔から言うけど

ほんと、私が今欲しいと思っているものが、いつも要さんに伝わっていて…


『私、甘いの大好き!』

喜んで受け取り、温かいカップの飲み口にそっと口をつける


クリーミーなホイップとこくりとした甘さ

いつもよりも増して甘い感じがする

私…疲れてたのかな?


ほぅ…と息を吐くと、要さんもホッとして同じ形のカップに口をつけた


そう言えば…


トレーの上にあるドーナツに視線を移す

『要さん、甘いものを注文するなんて珍しいね』

…そう、トレーの上のドーナツは私の分と

もうひとつ同じドーナツがお皿の上に載せてある

『何故か無性に食べたくなってね…』

フフって小さく笑うと飲んでいたカップをテーブルに置いて、ドーナツを手にしながら

『奏、ドーナツ食べる?』

そう言って一口分にちぎって

『はい、あ〜んして』

にっこり微笑みかける

私の心臓は相変わらず慣れなくて、終始ドキドキと鼓動を鳴らせたまま

『奏?』

怪訝な顔しながらさらに口元に近づける要さんの手先

『あ…あ〜ん…』

パクリと一口…

要さんのオリジナルの甘さをブレンドさせたように

とてもとても……甘い

『…要さんも、どう?』

要さんもドーナツを食べて顔が綻ぶ

『ドーナツおいしいね。…奏、コレ、何を選んだのかわかるかい?』

テーブルに置いてあるカップを指差して聞く要さんにつられて眺めても

カップの中身は全く見えず…

…う〜ん…紅茶?

でも、蓋がしてあって香りがしないから分からない

コーヒーかな?

甘いドーナツを一緒に並べてるから…

きっと、ストレートかブラック…だわ

紅茶かコーヒー…

う〜ん、どっちかな??


『奏はだいぶ悩んでいるようだね。そうだ、試しに…飲んでみる?』


何か…とっても楽しそうなその表情

まるで子供がゲームのヒントをあげている時のような何かを含んだ笑顔に近い…

それよりも、差し出されたカップの口元をジィーっと見つめてしまう

少しずつ…緊張が走ってゆく

だって…間接…キスだよ?

キスは…その…済ましてるから問題ないんだけど

間接的でも…キスを思わせる訳であって…

要さんとキスしてる時のことを…思い出しちゃうってこともあって…



『奏、顔が真っ赤だよ。何を想像…してた?』

余裕いっぱいに微笑む御堂さんにはどうしても勝てなくて

黙ったままカップを受け取って、俯きながら

そっと…口をつけた



………?

………??

…………???


口を離して思わず要さんに視線を戻した

『こ、これって…』

紅茶でもなくて

コーヒーでもなく

かと言って冷たいものでもなく…


『同じココア!?』


私があまりにも驚く様を見ておかしそうに笑う

返したカップを受け取って何もなかったように口をつけて飲み

私を見つめたまま要さんは

『今日は甘いものが無性に欲しかったんだ。珍しいよね』

『うん。すごく驚いちゃった…だって同じ味しかしてこないんだもの』

私も自分のカップに口をつけた


同じココアに同じドーナツ


なんだか恋人同士っぽくて…照れちゃうけど嬉しい////


そう思いながら同じココアをこくん…と味わって飲んでみた









『荷物は全部しまったし…少しドライブでもしていきましょうか』

助手席のシートベルトをカチャリと閉めるとエンジンを掛けたまま要さんが話かける

『奏、今日は朝からずっと独占してたけど…疲れてない?』

『ううん、要さんと一緒だから全然平気だよ!』

私がそう言うと要さんの目元がふわっと優しくなって

不意に顔が近づいた


『今日の奏は、本当に甘い奏だね』


要さんの唇が軽く私の唇に触れる

『外で朝食を取った時の笑顔も、ショッピングしてる時の楽しそうな笑顔も、恥ずかしそうに笑った時も、真っ赤になって戸惑っていた時も』

髪を梳くようにこめかみから指先を何回かすべらせて頭をそっと撫でてくれる

『今、こうして恋人同士の会話してても奏はとても甘い顔をしている』

おでこに柔らかい唇が触れる

『ねぇ、気が付いてた?今日は朝から二人で同じものを食べていたこと』

優しいキスにトロン…としていた私は朝からの記憶を手繰り寄せる

…そう言えば…朝のサンドイッチと紅茶、お昼のパスタとサラダと紅茶、そしてさっきのココアまで…

『…うん、一緒だった』

髪を梳いていた手は頬に触れて

『時々、考えるんだ。一緒に笑って、ずっと一緒に傍にいる…ずっとって素敵なことなんじゃないかなってね』

…素敵なこと?

『長く連れ添った夫婦で【似たもの夫婦】の人達って多いでしょう?』

『…こうして朝から同じものを一緒に食べて、それが体に吸収されて、細胞に繋がっていって、それを何年、何十年って一緒に繰り返して過ごしていくうちに、夫婦ってひとつになっていく…』

『…いつしか奏とそうなりたい…少なくとも今日だけでも細胞も一緒になっていってる…そう思いたい』

…似たもの夫婦

確かによく似ている夫婦っている

シワの入り方から考え方とか

おじいちゃんおばあちゃんが手を繋いでいる姿って

確かに羨ましくて、とっても素敵


『私もそうなりたいな』

『えぇ、私も…』


唇に触れる柔らかい要さんの唇の感触

『奏とずっといたい…』

『…私も』

言い終わらないうちに唇は塞がれてしまったけど

要さんの優しさが伝わる、甘くて、とろけるような口づけ




ずっと、ずっとそばにいたい




要さんとの時間を




そう、ずっと……


―Fin―

→雫流より


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