そんな貴方を愛してる
桜がちらほらと咲き始めた、4月のある日。
私は、春休みにも関わらず、学校にいた。
新学期の準備がある修一お兄ちゃんの車に便乗して、図書室に来たんだけど・・・
本を読むのにも飽きて、中庭でぼんやりとしていた私。
風が温かくて、とても気持ちがイイ。
日光でほどよく温まったベンチで、大あくびをしていると。
「こんなところにいたのか、奏!」
唐突に、声をかけられた。
この声は、蓮さん・・・!
しかし、パッと振り向いた私の目に入ったのは、妙な格好をした人だった。
いや、それは間違いなく蓮さんなんだけど・・・
修一お兄ちゃんの後輩で、東城院家の跡取り。
以前西園寺学院の教育実習に来て、今も時々顔を出していく蓮さんに、間違いはないんだけど・・・
長身の身体に似合わない、私と同じブレザーとミニスカート。
誰の制服だろう・・・可哀相なくらい、窮屈そう。
蓮さんは、がっちりしたほうじゃないけど・・・さすがに、男の人だから。
ブラウスの前も、もちろんブレザーの前も閉じられずに開いたまま。
リボンだって中途半端にぶら下がってるだけで・・・のぞいた胸元にぶら下がっている。
スカートも、ファスナー締められなくて、片手で押さえてる状態だし。
まるで、誰かに襲われて、そのまま逃げてきたみたい。
蓮さんは、あっけに取られている私の目の前までバタバタと走ってくると、肩を大きく上下させながら、私の目を見つめた。
「さっき、修一先輩に聞いたんだが・・・!」
切羽詰ったようすの蓮さんを、私は衝撃(笑撃?)で何も言えないまま、見つめ返す。
「お前が同性しか好きになれないというのは・・・ほ、本当なのか!?」
・・・はい?
私が、同性しか好きになれない?
いや、まさか。
蓮さんの乱れた女子高生姿で真っ白になっていた頭が、更に混乱する。
ちょ、ちょっと待って・・・
あわわ、頭の中がパズルみたいにバラバラに・・・
「なにをそんなに驚いている? 驚いたのは、俺のほうだぞ!」
「そ、そんな! 驚いたのは、私のほうですよ! その格好は、一体どうしたんですか!?」
「ふっ、愚問だな。それはもちろん・・・」
蓮さんは、さらさらの髪をかき上げる。
そして、キッパリとこう言ったのだった。
「奏が、女性しか好きになれないというからに決まっているだろう!」
「ちょちょちょ、ちょっと待ってください、蓮さん!」
私が慌てて口を挟んでも、蓮さんは全くお構いなしに言葉を続けている。
「・・・だから、俺が女になってやろうと思ってな。さぁ、これで文句はないだろう! 俺を好きになるといい!」
えーと。
さっき、蓮さん、確か・・・修一お兄ちゃんに聞いたって言ってたよね?
修一お兄ちゃ〜ん・・・
お兄ちゃんの悪ふざけが、こんなことになっちゃったよ・・・
思わずがくっと肩を落とした私を、不思議そうに見て、蓮さんは首をかしげている。
「どうした? こんな絶世の美女、他にはいないぞ!」
「・・・蓮さんが、絶世の美女かどうかはおいといて・・・修一お兄ちゃんに騙されたんですよ、たぶん・・・じゃなくて、絶対」
「そうだ、そうに決まって・・・え、だ、騙された!?」
茶色っぽい蓮さんの目が、大きく見開かれる。
「今日、エイプリルフールですもん。嘘をついてもいい日なんですから」
私が笑いを堪えながら言うと。
蓮さんは、照れたように笑いながら、うんうんとうなずいた。
「そうかそうか、エイプリルフールか!・・・いや、安心したぞ! 俺のようないい男が身近にいるのに、女性しか好きになれないなんて・・・もったいなさすぎるからな!」
自分で、いい男って言っちゃったし!
私は、ついに我慢できずに吹き出した。
ふふっ・・・こういうところが・・・スキなんだけど、ね。
ちょっとズレてるけど、なんだか憎めなくて、可愛くて。
いい男かっていうと、違うんだけどな。
「ふふっ、何を照れている?」
顔を真っ赤にして笑い転げる私を、腰に手を当てた蓮さんが覗き込んだ。
「さぁ、まっすぐ俺の胸に飛び込んでくるといい!」
もー、ミニスカートで仁王立ちとか・・・やめて欲しいんですけど!
でも、自信満々に両手を広げる蓮さんには、やっぱり敵わない。
私は、まっすぐとはちょっと言えないけど・・・
笑いながら、蓮さんの胸に飛び込んだ。
Fin
→雫流より
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