「…失礼します。プリント、持ってきました」
社会科準備室。
自分のデスクで、サラサラとペンを動かしている修一お兄ちゃんが、入ってきた私を見てふわりと微笑んでくれる。
「ありがとう。こっちへおいで?奏」
二人っきりになった時にだけ見せてくれる、恋人の顔。
いつもより男っぽいその表情を見るだけで、私の心臓はドキドキと音を立てはじめてしまう。
「わざわざ呼び出すなんて、どうかしたの?」
クルリと椅子を回転させて私と向き合った修一お兄ちゃん。
手渡したプリントをデスクに置くと、そのまま私の手をそっと掴んで引き寄せた。
「ちょ…修一お兄ちゃん////」
修一お兄ちゃんの膝に乗り上げるような形になり、恥ずかしい体勢に、ますます顔が熱くなっていくのを感じる。
「…蓮と、ずいぶん楽しそうにしていたね」
ふわりと髪を撫でてくれる感触に身をまかせようとしたら…思いがけない言葉に遮られて、修一お兄ちゃんの顔をまじまじと見つめてしまう。
「え?」
「廊下まで聞こえていたよ。仲が良さそうに、じゃれ合っていた」
「じゃれてたっていうか…あれは蓮さんが一方的に……」
「そう?楽しそうに話しているように見えたけど」
「そんなこと、ない…んっ///」
私の言葉をすくい取るように、そっと、唇が重ねられる。
一瞬だけ触れて離れていった唇。
顔を覗き込むと、悩ましげに眉を寄せている表情も、カッコよくて…色っぽくて。私はドキドキするのを抑えられない。
「まったく…情けないな。蓮が奏に触れているのを見たら…冷静でいられなくなった。奏に触るなって、大声を出しそうになった…学校なのに」
修一お兄ちゃんの漆黒の瞳が、じっと私を捉えている。
「自分がこんなに嫉妬深いなんて、奏に出会うまでは知らなかったよ。恋愛には淡白な方だと思っていたのに」
そっと抱き寄せられ、耳元で囁かれると…鼓動が一気に跳ね上がった。
「ヤキモチ…妬いてくれたの?」
「指導案だって、別に今日じゃなくても良かったんだ。蓮にまで当たるなんて、指導教諭としても、俺は失格だ…」
「ふふっ」
「…呆れた?いい大人のくせに、こんな…全然余裕がない」
少し赤くなって、拗ねたように視線を落とす修一お兄ちゃん。
そんな姿が可愛くて。そして、愛されている実感が嬉しくて。
「嬉しい…よ?修ちゃんが…そんな風にヤキモチ妬いてくれるなんて、嬉しい/////」
私は修一お兄ちゃんの首にそっと手を回して……自分から、軽く触れるだけの、キスをした。
「……」
「修ちゃん?」
何も言ってくれない修ちゃんの顔を覗き込もうとすると…
「きゃっ」
強い力で、身体を抱きしめられる。
視線をずらして修ちゃんの表情を窺うと…口元を手で抑えて、顔を真っ赤にしていた。
「不意打ちだ……これ以上は我慢しようと思ったのに……俺を狼にする気か?」
「え?…ええ!?」
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