Harris(one fine morning)


朝日が気持ちいい。ヨーロッパの冬は日本のそれみたいに乾燥していないからすごく好き。ただ、太陽の出てる時間が短いせいで、朝日が昇るのはけっこう遅いのだけれど。


「ん、……うーん」


ごろん、と寝返りをひとつ。もう少し寝ていたくて、朝日の眩しい窓から目を逸らそうとした。
視界が180度変わると、目の前には綺麗な紅い髪。ふわふわと柔らかいその髪が私の頬を優しく撫でる。きれいなきれ いなアカイカミ……。ん?


「………!!?」


あれ、なんで?なんでなんで紅い髪?
衝撃のあまりに眠気なんてすっ飛んでいって、理性が覚醒した。ばっと飛び起きると布団が捲りあがって、私の隣で眠るハリスくんが薄目をあけた。


「……何?その顔」

「え、あの、色々と説明して頂きたいことが…」

「そう。……後にして。僕まだ眠いし」

「あ……そっか。ごめんね起こしちゃって」


………。ち、ちがう!普通に会話しちゃってるけど(ていうかハリスくん二度寝しちゃったけど)、あれ、何で私がハリスくんと一緒にベッドの上にいるのかしら!
恐る恐るハリスくんの方を向いて、彼の肩あたりの毛布をぺらリと捲った。…うん大丈夫だよね。ハリスくんちゃんと服着てる。私も着てるし。


とにかく今のこの状況を理解しようと、私はひとまず深呼吸をした。タイマーでセットしていた暖房も切れてしまったみたいで、少しひんやりとした空気が気管を通って肺へと到達する。ひりひりとするような冷気に、頭もはっきりとしてきた。


確かロンドンに着いたのは昨日の夕方。クリスマスはスチュワード家で過ごすのが西園寺家の恒例行事だもん。そうだ、皆は明後日来るんだけど、私はどうしても一分一秒でも早くハリスくんに会いたくて、大学が冬季休業に入ったその日にひとり日本を発ったんだ。空港に迎えに来てくれたハリスくんを見るなり嬉しくてつい抱きついてしまった私に、真っ赤な顔をしたハリスくんに「ヤマトナデシコは控えめなはずだけど?」なんて嫌味満載で悪態をついてきたのを覚えている。
ハリスくんオススメのレストランで食事をして、お店を出たらけっこう寒かったから、近くのお店でテイクアウトのホットワインを買ったんだ。うんうん、けっこう思い出してきた!


……で。


「ん?……あれ、その後どうしたんだっけ?」


近くにイルミネーションが綺麗なブリッジがあるとハリスくんに教えてもらったことは覚えている。ホットワインのカップをカイロがわりに持って…、あ、そういえばあまりにも寒かったから時々脚を止めてホットワインを飲んでたような気がする!

うん。気がする。



「……もしかして覚えてないわけ?」

「わ、ハリスくん!?」

「枕元でひとりごとを言われちゃ、僕だって起きるんだけど…」


明らかに不機嫌そうなハリスくんだったけれど、それは私が記憶している例年の不機嫌とは違う。安眠妨害したことより、ただ単に「何言ってるの?」と言いたげなそれ。



「え、えと……私なにかしちゃった?」

「(本当に覚えてないんだ…)……あー昨日は良かったなぁ」

「えっ!?」

「気持ちよかった?」

「えぇえ!?」


いったい私は何をしでかしてしまったのかな。ハリスくんが口角をあげて艶やかに微笑む。うー、なになになに!本当に私は何をしたの!寝起きのハリスくんが微笑むだけで奇跡にも似た出来事なのに、それが妙に怖い。


「…ふふ、冗談。相変わらずチャーミングだね」

「!?」

「いちいち照れないでよ。こっちが照れる」


ハリスくんは素直じゃないけれど、やっぱり英国男性だからかな。リップサービスが本当に上手でストレート。照れてる私をからかうように眺めてクツクツと笑ったあと、ハリスくんは私の髪を優しく梳いた。………どきん。


「何もないよ。眠そうだったから迎えをよこして帰ってきただけ」

「え、でも…」

「言っておくけど、僕がこの部屋に連れ込んだわけじゃないから。キミがついてきたんだよ?自分の部屋は寒いからって。それだけ」

「……ハイ、すみません」



2つも年下の男の子になんてことをしてるんだろう私。恥ずかしさと申し訳なさでしゅんとしてると、ハリスくんが私の頭をよしよしと撫でてくれた。これは…慰めてくれていると解釈していいのかな。


「……ま、反省してるならいいんじゃない?」

「でも、」

「僕は嫌じゃなかったし」

「え?」


空耳、じゃないよね?今日のハリスくんはやっぱり変かもしれない、ていうか変だよ。心の底に何かとてつもない楽しみを持っているような、とにかく不思議なくらい機嫌がいい。調子狂っちゃうなぁ。



「あの、もう他には何もしてないかな?私、」

「あー…………うん。してない、かな」

「(間があった…!?)」



1年ぶりにロンドンで迎える朝は、驚きとどうしようもない羞恥心と、不思議なほど機嫌のいいハリスくんでいっぱいいっぱいだ。

他に何かしちゃったのかは気になるけれど、き、聞くのが怖いからとりあえず保留にしておこうかな…!




朝でもリセットできないほどに、



「ちょ、なんか酔ってない?」
「んー?」
「ホットワインくらいで酔わないでよね」
「んふふー、いいじゃなーい」
「………」
「酔った方がね、ハリスくんに大胆になれるでしょ?」
「………(きゅん!)」



fin


→雫流より


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