質より量より 愛を込めて


なんだ、今日は。

朝からファンクラブの女子たちの騒ぎようが尋常じゃねぇ。裕兄は いつもにましてテンションが高いから、瞬にまで距離を置かれてやがんの。雅季なんかは はてなマークを背負った俺に対して「ばか」とでも言いたげな冷たい視線。
おいおい、俺なんかマズいことしたっけか?




「どうしたの?雅弥くん、」

「ん…いや、何でもねぇけどよ」


やべ、そういや昼飯時だっけ。手元を見ると俺の手に握られた箸の先には たまご焼きがちょこんとあって、一体いつから慣れない考え事をしていたのか検討もつかない。

何でもねぇ、と言ったものだから察しのいいこいつはそれ以上は訊かなくて、「そっか」と言ってふわりと微笑んだ。で、それにつられて頬が緩む俺。
あぁ、もうなんだって、こいつの隣はこんなにも心地いいんだろう。
柄にも無く、しあわせだなーなんて噛み締めてみる。





「今日のお弁当ね、」

「ん」

「私が作ったんだ」

「……、お前が?」

「うん。なかなかの出来でしょー?」


そう言って、えへへ と顔を綻ばせるこいつ。………驚いた。てか、気付かなかった(ふつーにシェフが作ったもんだと思ってた!)。やべー俺、超勿体ないことした。もっと味わって食えばよかった!


「…屋上で食う開放感の所為で美味いんだと思ってたぜ」

「!なにそれーっ」



素直に「おいしい」だなんて恥ずかしくて言えるか!

だけど怒ったように手を振り上げたこいつの顔がすごく嬉しそうだったから、あぁ伝わったんだ って心がほっと穏やかになった。
こいつ、どんだけ俺の理解者よ?
兄妹で恋人、なんてややこしい関係だなんてこと、簡単に忘れちまえる。



「てかさー、」

「ん?なぁに?」

「なんで手作り弁当?今日って何かあったか?」

「えー、それ言うのー」

「?」



仕方ないなー、なんて言って微笑うこいつ。意味わかんねぇ。どいつもこいつも、本当 今日は妙な態度ばっか取りやがる(こいつの場合は楽しそうだからいいんだけど)。

広げた弁当の上に箸を置いて、自然にじっと目を合わせる。屋上を吹き抜ける風にこいつの栗色の髪がふわりと靡いた。
ちくしょう、きれー、じゃん。



「ねぇ、雅弥くん。教えてほしい?」

「…なんで上から目線なんだよ」

「いいからいいから。ね、耳かして?」

「かえせよ?」

「ばか」


冗談を言ったら こつん、と痛くないゲンコツをくらった。おぉう。
それから徐々に顔が近づいてきて、耳元に甘い吐息を感じる。

















happy birthday, 雅弥くん!生まれてきてくれてありがとう。



















「………っ!!」







囁かれた小さな言葉に心臓が鳴いた。

そうか、俺、今日誕生日だっけ。

昔から雅季と一緒くたにして祝われていたものだから、俺はあいつのついでみたいに思えて あんまり好きじゃなかった誕生日。誕生日の主役、が2人いる我が家で俺が1番になれることなんてなくて、だから誕生日なんてどうでもいいと思っていたけれど。


あぁ、これからは、こいつがいるのか。







「!ちょ、わっ、雅弥く…!」

「ん?なんだよ」

「なんだよ、じゃなくて!この体勢っ」

「押し倒しましたが何か?」



ふふんと笑ってそう言えば、俺の下に組み敷かれたこいつの顔が真っ赤になった。頭と腰を支えて、屋上のコンクリートにこいつを寝かせただけなのに、あぁもう、心臓がやべぇ。上に乗っかったまま、そっと、朱色に染まった頬にキスをしてやれば更に紅くなりやがる。だぁあーもう、だから可愛すぎるって!



「ままま雅弥くん!」

「吃りすぎ」

「だ、だって!はずかし…んっ!」



何か言いたげなこいつの唇を俺のそれで塞ぐ。

悪ぃな、ちょっとだけ我慢してくれ。

1年に1度の誕生日。お前が祝ってくれんだろ?








質より量より
を込めて

(いいもんだな、誕生日って)





2010/04/19

→雫流より


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