「…俺より、修一兄さんを好きになっちゃったんだよね…」
そう呟いた瞬間、『ぱちんっ』と乾いた音を立てて奏の両手が俺の頬を挟んだ。
そのまま俺の顔を自分の顔に合わせると、顔を真っ赤にしながらおでこを合わせる。
「そんな事ある訳ないじゃないっ///
どうして、そんな事を思ったの?」
拗ねたような視線に、俺は正直にここ数日の奏の行動で感じた事を告げた。
「だって…俺の帰りが遅かったり予定がある日に限って修一兄さんと一緒だったから…。
どんなに否定しようと思っても、嬉しそうな奏の顔を見てたら…そうとしか思えなくて…」
「勘違いさせる事をしてごめんなさい。
修一お兄ちゃんと一緒にいたのは…」
そう言って奏が差し出したのは、奏が気に入っているピアノの箔押しがされた封筒。
「開けてみて?」
促されるままに、俺は封を開ける。
その中には奏からの招待状。
「え、これって…?」
何か分からずきょとんとすると、奏は少しだけ呆れた顔になる。
「…分かってくれないの?」
「え、何が?」
俺が困った顔をしたのだろう、奏は柔らかく微笑んだ。
「…それはね?」
奏の言葉と同時に、日付が変わったのを報せる音が聞こえる。
俺が口を開く前に、柔らかい奏の唇が俺に優しく触れた。
「お誕生日おめでとう、裕次!」
恥ずかしそうな奏の笑顔に、俺は奏を強く抱きしめた。
「そうだ!俺、誕生日だった!!」
俺の言葉に、奏は耐えられないと言った風に吹き出した。
「自分の誕生日なのに…」
「だって、奏が俺から離れると思って…気が気じゃなかったんだ」
「うん、ごめんね。
その…修一お兄ちゃんに、色々手伝ってもらってたから…」
「手伝ってもらうって、な………あっ!」
答えに辿り着いた俺に、奏が『内緒ね?』と唇に人差し指を当てた。
その仕草に、俺は安堵と少しのイタズラ心を覚える。
「ねぇ、奏。
皆ホールで待ってるの?」
「え?うん」
「…奏を誰かが呼びに来る可能性があるから、あまり時間はないか…」
「えっ?」
俺の言葉に何かを感じ取った奏が不安そうな顔をする。
「彼氏をヤキモキさせた彼女には、お仕置も必要だし…」
「えぇっ!?」
慌てた奏を抱きしめて、甘く囁いた。
「…皆からお祝いしてもらったら、その後の時間を俺がもらってもいい?」
奏はこくりと頷くと、頬を赤く染めながら…ゆっくりと瞳を閉じていく。
「誕生日おめでとう…」
唇が触れる寸前に小さく零れた言葉が甘く広がる中で、俺は甘いキスを落とした。
−fin−
→雫流より
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