コンコン

「お嬢様。御堂でございます。お支度はお済でございますか?」

約束の時間の少し前、御堂さんが迎えに来てくれた。
私は、ファーのついた白いコートを羽織り、バックを持ってドアへ向かった。
御堂さんについてガレージへ向かうと、裕次お兄ちゃんが愛車の前で待っていた。

「奏ちゃんこっちこっち」

笑顔で手を振るお兄ちゃん。
車の前まで来ると助手席のドアを開けて、私を中へと促す。

「では裕次様、奏お嬢様、お気を付けていってらっしゃいませ。」

「うん、要さんありがとね!」

ブォンとエンジンをふかし、車は出発した。
しばらく走ると、目的の神社へ到着。
だけど、すでに長い行列が出来ていた。

「すごい行列だね。」

車を止めて降りると、私は人の多さに驚きの声を上げた。

「うん、ここはこの辺でも有名な神社だからね。さっ奏ちゃん行こうか?」

すっと私の手をとる裕次お兄ちゃん。
私はびっくりして、お兄ちゃんの顔をみる。

「人がいっぱいだし、こうしていたら迷子にならないでしょ?」

「そっそうだね。でも、なんだか緊張しちゃうな・・・」

「どうして?手を繋いで、ほらっこうしたらあったかいよ?」

繋がれた手は、裕次お兄ちゃんのコートのポケットへ。
私はかぁっと顔が熱くなった。

「あれ?奏ちゃん、顔が少し赤い・・・?」

「だっ大丈夫だよ?寒いからほっぺが赤くなっちゃったんだよ!」

変な言い訳だったかなぁとも思ったけど、裕次お兄ちゃんはそっかーと
言っただけで気にも留めることなく歩き出した。
沢山人がいたけれど、思ったよりも人の波は動いていた。

「もう少しで0時になるね。新年を奏ちゃんと二人だけで迎えられるなんて嬉しいなぁ♪」

ニコニコとする裕次お兄ちゃんに、私は心の中でつぶやく。


『でも、私は裕次お兄ちゃんの誕生日を1番に祝えるのがうれしいよ?』

ぞろぞろと進むと、とうとう神社の前までやってきた。
二人でお賽銭を投げると、ゴーンと鐘が鳴り響く。

「あ!新年だ!奏ちゃん、あけましておめでとう♪」

「裕次お兄ちゃん、お誕生日おめでとう!」

私の言葉に、きょとんとするお兄ちゃん。
まさか、お誕生日忘れてた!?

「そうか〜〜〜俺の誕生日かぁ。すっかり忘れてたよぉ。奏ちゃん、ありがとう!」

ぎゅっと裕次お兄ちゃんが私を抱きしめた。

「おっお兄ちゃん!」

そのまま、ぎゅっと肩を抱き寄せたまま車へと向かった。
車に乗り込むと、私は用意していたプレゼントを渡そうと、バッグを開ける。
・・・あれ!?忘れてきちゃった!?

「どうしたの奏ちゃん。何か落とし物しちゃった!?」

「ううん、違うの。裕次お兄ちゃんに、誕生日プレゼントを用意してきたのにおうちに忘れてきちゃったみたいで・・・。ごめんなさい!!」

私は思いっきり頭を下げた。

「ふふ、いいよ。顔を上げて?でも、その代わりに今欲しいものがあるんだ。」

私は顔を上げてお兄ちゃんを見る。
すると、ふっと目の前が暗くなりひんやりとして柔らかなものが唇にあたる。

「俺がいま欲しいのは、奏ちゃんだよ。」

「わっ私!?」

うんと頷くと、もう一度唇を重ねてきた。
甘い甘いくちづけに、私の体はまた、かーっと熱くなる。

「これから先も、ずーっと一番にお祝いしてくれる?」

「うん!もちろんだよ!」

「じゃぁ約束ね?」

今度は長い長い約束のキス。

裕次お兄ちゃん、お誕生日おめでとう。これからもずーっとお祝いさせてね?


―Fin―


→雫流より


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