「お嬢様、雅季様と雅弥様のお支度が、整ったようでございますよ」

様子を見に行っていた御堂が、戻ってくる。

奏は、テーブルに手をついて立ち上がると、嬉しそうに大きくうなずいた。

「さ・・・どうぞ」

御堂にうながされて、双子が、食堂へと足を踏み入れる。

オーディションということで、家の中にも関わらず、靴までビシッと揃えていた。

「へぇ〜!」

裕次が、思わず感嘆の声を漏らす中、兄弟たちの視線を集めた双子は・・・決まり悪そうに、視線をさまよわせていた。

雅季は、例のピンクとブルーのチェックのシャツに、シンプルな黒のブレザーを合わせた、トラッドスタイル。
ブレザーの襟元には、シルバーのピンブローチがキラリと光っている。
中世ヨーロッパのレイピアを模った、凝ったデザインのものだ。
滅多にはかない細身のブラックジーンズと先の尖った革靴は、雅季のスリムな脚に似合っている。

そのブレザーの下でクマさんのアップリケがニッコリしていることは・・・もちろん内緒。


一方の雅弥は、例の重ね着風カットソーに、黒の中折れハットで、カジュアルにまとめている。
胸元には、羽根をモチーフにしたペンダント。
腰にもゴツめのウォレットチェーンを下げて、アクセントにしている。
適度にダメージ加工されたデニムにワークブーツを合わせて、無造作にナナメ立ちする姿は、雅弥の雰囲気にとても合っていた。

その着崩したデザインのカットソーが、実は原型をとどめていないなんて・・・もちろん内緒。


ともかく、それぞれの“らしさ”が存分に発揮されたスタイルは、大いに兄弟たちを感心させたのだった。

「雅季兄ちゃんも、雅弥兄ちゃんも・・・カッコイイ」
「ふむ・・・さすがに、西園寺学園の人気者の名は伊達ではありませんね」
「さすが、俺の弟だよね〜!」

わいわいと兄弟たちが盛り上がる中、ひとり口をつぐんでいたのが、奏だ。

テーブルに両手をついたまま、大きな目で双子をまじまじと見つめている。

「なんだよ、奏! そんなじろじろ見んなよ!」

照れくささで顔を真っ赤にした雅弥の言葉に、奏はようやく我に返った。

そして、今更のようにパッと頬を染める。

「・・・っ、ご、ごめん! ・・・だって二人とも、あんまり・・・カッコイイ・・・から・・・」

「はぁ? 何ぼそぼそ言ってんだよ!」
「奏のためにわざわざこんな格好してるんだからね。選ぶなら、さっさと選んでよ」

無表情に腕組みをして、そっけなく言う雅季だが、その内心はもちろん穏やかなはずはない。

(・・・奏、さっきから雅弥のほうばっかり見てない? 僕の格好・・・奏の好みには合わなかったのかな・・・?)

雅弥はと言うと、露骨にイライラと帽子をいじっている。

(どう考えたって、俺を選ぶしかねーだろ!? なんでそんなに、雅季のほう見るんだよ、奏のヤツ・・・!)


奏は、困ったように頬を染めながら、双子の間で視線をさまよわせている。

しびれを切らしたように、雅弥が言った。

「奏! 俺を選べって! 俺のほうが雅季より・・・背が高い!」

すると、雅季も・・・

「・・・何言ってるの? どう見たって、同じでしょ。それに健康診断、来週だよ」

「いーや、身体鍛えてる分、俺のほうが背が高いはずだ! 筋肉ついてる分、見栄えもする! お前みたいなひょろひょろとは違うんだよ!」
「ッ・・・! そ・・・その分、頭の中も筋肉でしょ? 高度な会話ができるのは、間違いなく僕だと思うけど?」
「・・・同窓会のどこに、高度な会話が必要なんだよ!」
「あんまり頭の悪いことを言ってると、一緒にいる奏のレベルも下がるからね」
「ふざけんなよ! ちょっとテストの点がいいからって、ヘンなところで威張るんじゃねぇっつーの!」
「雅弥こそ。おかしなところで優越感持たないでくれる?」

「ま、まぁまぁ、お二人とも! お嬢様が、困っておいでですよ」

御堂のとりなしに、双子は慌てて口をつぐんだ。
そして、真剣に悩んでいる様子の彼女に、思わず顔を見合わせて・・・軽く火花を散らすと、口々に言う。

「奏・・・僕を選びなよ。僕だったら・・・ホンモノの彼氏なんて必要ないってくらい、いい思いさせてあげる。・・・これからも、ずっと」

甘やかすように、雅季が滅多に見せない優しい微笑みを浮かべれば。

「奏、俺を連れて行けよ! お前が思いっきり自慢できるような彼氏役、やってやるからさ! ・・・別に、演技じゃなくても、いーけどよ」

ニカッと自信満々に笑う雅弥は、言い切っておきながら、頬を染めて目を逸らす。

二人の自己アピールを受けて、奏は・・・



こっくりと、うなずいた。



シン、と静まり返る食堂。



「私・・・やっぱり、ひとりで行きます」


「「「「「「「ええええっ!?」」」」」」」

思わず大声を上げる兄弟たちに、奏は晴れ晴れとした笑顔を向ける。

「だって、二人に悪いもん・・・彼氏役だなんて、失礼だったよね」

そう言い切る奏の表情に迷いはなかった。

「で、でも、奏ちゃんの彼氏役のために、二人はおめかししたんだよ?」

言葉をなくしている双子を見遣って、裕次がおろおろと言うが。

にこにこと嬉しそうな奏は、呆然とする双子に駆け寄って、二人まとめて抱きしめた。

「ま、奏っ・・・!?」
「おっ、お前ッ!」

「二人が、こうやって・・・私のためにがんばってオシャレしてくれただけで・・・嬉しい」

顔を真っ赤にして動揺する双子におかまいなく、奏は二人にぐいぐいと頬ずりした。

「約束は・・・いいの?」
「彼氏連れてくって、約束したんだろ?」

心配そうな双子に、奏は特上の笑顔で答えた。

「私、胸張って言うよ。彼氏はまだいなくても、大好きな人がいます、って」

「「え・・・???」」

奏の言葉に、一瞬食堂の空気が変わったが。
そこには触れずに、奏は双子から離れると、食卓についている兄弟たちを見渡した。

「ね、修一お兄ちゃんも裕次お兄ちゃんも、瞬くんも・・・御堂さんも柊さんも! ありがとうっ!」

「ええ、まぁ・・・それならいいんですが」
「う、うん・・・同窓会、楽しんできてね?」

本当によかったのかと、釈然としないものは残ったが・・・
悩んでため息をついていた奏が元気になったということで、兄弟たちも安心したようだ。

「では柊さん、雅季様と雅弥様のお食事を」

「はい、シェフに言ってまいります」

「そうだよ、そういえば! 俺たちまだ何も食ってねぇんだぞ!」
「・・・みんなは、僕たちが服を選んでる間に済ませたってわけ・・・? しかも、奏まで・・・」

雅弥が食卓のメンバーをキッと睨みつければ、雅季も咎めるような冷たい視線を向ける。

「えへへ、ごめんごめん! ふたりの食後のお茶まで、ちゃんと付き合うから、ね?」

奏は、御堂に紅茶のお代わりを頼みながら、ウインクして小首を傾げた。

その可愛らしい仕草に、双子もしぶしぶ溜飲を下げて・・・
やがて、いつもの食卓の、和やかな雰囲気に戻る。

「はぁ・・・自分で服を選ぶって、疲れるものだね・・・」

「だったらさ、今度俺にコーディネイトさせてよ!」

「エンリョしとく。雅弥にしてよ」

「はぁ? 冗談じゃねーっつーの!」

「あああ、もう! 二人まとめてコーディネイトしてあげるから! ペアルックとか、どう?」

「「絶対にイヤだ」」

「ふふっ・・・僕も、普段はスーツばかりですから。たまの休みに出かけようと思うと、悩みますね」

「そういえば修一兄ちゃん、時々、ネクタイとシャツの色が合ってないときがあるよ」

「・・・瞬、そういうことはその場その場で言ってくださいね・・・」

そんな兄弟たちのやりとりを、温かな紅茶に唇をつけながらにこにこと聞いている奏。



その視線が、誰に向いているかは・・・




今はまだ、彼女だけの秘密。






だって・・・ふたりとも、大好きなんだもん・・・!!!




Fin


→雫流より


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