<候補者1・雅季>
全く・・・どうして、僕がこんなことを・・・!
雅季は、自室のウォークインクローゼットの中を行ったり来たりしながら、服を選んでいた。
ウォークインクローゼットとは言っても、そこはもちろん西園寺家である。
一般庶民のワンルームマンションくらいの広さはあるだろう。
そこに収納された大量の洋服をひとつひとつ検分しながら、雅季はぶつぶつと呟いていた。
着る物に無頓着な雅季は、御堂が季節に合わせて揃えているその服を気にしたことは、これまでには全くなかった。
普段は制服で事が足りるし、パーティーともなればタキシード。
休みの日だって、せいぜい散歩に出るくらいだから、動きやすく、着心地のいい気に入ったものしか身につけない。
まさか、それがこんなところでハンデになるなんてね。
・・・コーディネートの得意な要さんが手伝ってくれれば、あっという間なのに・・・
洋服を選ぶって言うのは、面倒なものだね。
彼氏役で同窓会・・・どんな格好すればいいんだろう?
奏の、彼氏役・・・か。
他の誰かにさせるなんて、絶対・・・イヤだ。
兄さんたちや瞬が、そんな大役を勤められるなんて、最初から僕は思ってなかったからね。
頃合いを見計らって、ダメ出しするつもりだったけど・・・奏も、あれでなかなか先が見えるらしい。
あのときは思わず、心の中でうなずいたよ。
その通りだよ、奏・・・ってね。
でも、結局、僕と雅弥で競うことになるのか・・・
はぁ、とため息をつきつつ、雅季は一枚のシャツを手に取る。
淡いピンクとブルーのチェックで、春らしい雰囲気のシャツだ。
ん・・・これにジャケットを合わせる、というのはいいかもしれないな。
うん、これにしよう。
素材も、柔らかくて着心地がよさそうだし。奏の好みにも合いそうだ。
間違いない。奏は、僕を選んでくれる。
雅季は、微笑を浮かべながらうなずいて、シャツをハンガーから外した。
そして、その背中側を見て・・・硬直した。
ちょっと・・・要さん・・・!!!
いくらなんでも、この歳でクマのアップリケ付きとか・・・
あ・り・え・な・い・か・ら!!!
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