「実はね、明日、中学校のときの同窓会があるの・・・」
静まり返った食堂に、奏の声が響く。
「はい、存じております。送迎の車の手配も、お召し物のご用意も全て、準備万端整っております。何も、不安に思われることはございませんよ?」
奏は、心配そうに見つめる御堂に微笑みかけて感謝の意を表すと、何度目か知れないため息をついた。
「ただの同窓会ならいいんだけどね、私・・・友達と、中学の卒業式の日に約束しちゃったんだ」
「約束? そんな大変な約束だったのですか?」
修一が、怪訝そうに奏の顔を覗き込んで尋ねる。
奏は、こっくりとうなずいて、消え入りそうな声で言った。
「・・・初めての同窓会の時には、みんな彼氏連れて、彼氏自慢大会しようね、って・・・」
「か、彼氏自慢大会!?」
素っ頓狂な声で叫ぶ、男連中。
まぁ、よくある話ではある。
次に会うときは、私絶対結婚してるんだからぁ!とか、10s痩せてモデル体型になってるんだからぁ!といった、他愛ない約束だ。
・・・約束?
いや・・・それを、約束というのかどうか・・・
守る必要が、一体どこにあるのか・・・
実際に彼氏同伴で同窓会に出席できる同級生が、どれくらいいるのか・・・
それを今あえて追及しようと思う者は、その場にいなかった。
「でも私、彼氏いないから・・・なんだか、負け組みたいで・・・だから、どうしようかと思って・・・」
泣きそうな声で続ける奏に、何が言えただろう。
「ま、奏ちゃんに彼氏なんて必要ないよ!」
「そうだそうだ! なんで彼氏がいないと負け組なんだよ!?」
「彼氏のいるいないで、劣等感を感じる必要性は、全くありませんよ」
色めきたって叫ぶ裕次に、珍しく雅弥が同意すれば。
修一も、深々とうなずいて、諭すような口調で奏に言った。
しかし奏は、駄々っ子のように首を横に振ると、食卓の兄弟を見回して、こう言ったのだった。
「だ、だから・・・・・・誰か、私の彼氏のフリしてくれない!?」
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