「ああ、それから…」
何かを思い出したように、柊さんが執事服の内ポケットを探る。
「な、なんですか?」
「これを…」
普段そこに、タバコと携帯灰皿が入っている事は知っているが…
「!? それは…」
柊さんが取りだしたのは、シルバーの携帯灰皿。
そしてそこに取り付けられていたのは…
「御堂さんには申し訳ないですが、私も奏お嬢様からいただきました。携帯灰皿付きで」
筒型をしたシルバーの携帯灰皿には、自分のものと同じ子猫のストラップが揺れていた。
よく見ると、可愛らしい文字で『吸いすぎ注意!』と書いたシールまで貼られている。
「『柊さんはストラップなんて付けてくれそうにないから、灰皿も一緒にプレゼントします!絶対使ってくださいね!』だそうです」
……お嬢様…私だけにくださったのでは、なかったのですね(涙)。
がっくりとうなだれた私の耳元に、柊さんがそっと近づいてくる。
「……お揃い、ですね。要さん」
「で、ですから!趣味の悪いからかい方はやめてください!///」
耳を押さえて慌てて離れた私に、柊さんはニヤリと口の端を上げた…
「せっかくのお嬢様からのプレゼントです、お互い大切にいたしましょう」
もう一度意地悪く笑うと、柊さんは自室へ戻るのか、ドアに向かって歩いていく。
「お疲れ様でした、御堂さん」
「は、はい、お疲れ様でした…柊さん」
「…さっきの、嘘ですから」
「!?」
「…では、失礼いたします」
ドアの前で折り目正しく一礼をして、柊さんは部屋を出て行ってしまった。
「(嘘って…どれの事だ??)」
場合によっては、自分はかなり危ない状況なのでは…いや、結局全部からからかわれているだけのような気もするし……
「(…やめた、考えていたら眠れなくなりそうだ…)」
机の上に放り出されたままのストラップを眺めながら、深いため息をついたのだった。
おしまい
→雫流より
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