「……それは、お嬢様から?」
私の背後にやってきた柊さんが、手の中のストラップを覗き込む。
「え、ええ。そうなんです。奏お嬢様とお揃いで…いただいたんです」
きっと私の顔は、だらしなく緩んでしまっているんだろうけど。
お嬢様のことを思うだけで、こんなに幸せな気持ちになってしまうのだから仕方がない。
「………」
「柊さん?」
私の言葉に、あからさまに不機嫌そうな目つきで黙り込む柊さんに、もしや…と、悪い予感がする。
「柊さん、まさか」
「なんでしょうか」
「貴方も奏お嬢様のことを……?」
「…そう、思いますか?」
執務用の椅子に座ったままの私を、柊さんの鋭い視線がじっと捉える。
「だって、なんだか…嫉妬しているようで……」
そして、その瞳が何かを我慢しているようで。
「…そうですね、嫉妬しているのかも、しれません」
ゆっくりと口を開いた柊さんの手が、私の手からストラップをするりと抜き取る。
やっぱり、柊さんは…
「す、すみません。私がどうこう言っていい事ではありませんでした」
「…鈍い人ですね。俺が嫉妬しているのは…」
「?」
ストラップを執務デスクの上に放り投げ、その手が私の腕を掴んで身体を引き寄せる。
「柊さん?」
「あなたにこんな物をプレゼントしてくれた、奏お嬢様に、ですよ?」
「……へ!?」
「ちょ、ちょっと、待ってください!一体どういう…」
「言葉通りですよ。あなたにそんな顔をさせる奏お嬢様に、嫉妬していると言ったんです」
立ち上がった自分の至近距離に柊さんの顔があり、抱き寄せられるような形になっていた。
こ、この状況は…!!?
考えたくはないが、やっぱり、そういうコト、なのだろうか??
「ひ、柊さん?私はその、男ですし、それにお嬢様の事が・・・!」
「分かっていますよ、そんなこと。でも俺は、欲しいと思ったものは必ず手に入れる」
鋭い視線で射抜かれると、その眼から逃げられなくなってしまう。
息がかかるほどの距離で囁いた柊さんの指が、自分の前髪にそっと触れ…
「俺のものに、なりませんか?要さん」
その大きな手が自分の顔に降りてきて、そっと頬を包まれてしまう。
「は、離してください…」
「離しません」
身をよじろうとするとさらに強い力で抱き寄せられ、そして深い灰色の瞳が、近づいてくる。
「や…イヤだ、俺は…!!」
思わずギュッと瞑ってしまった眼に、涙がにじんでくるのが分かった。
――ペチッ
「痛っ……え?」
恐れていた感触は唇に触れることなく、代わりに額に軽い痛みが走る。
「クク……冗談ですよ」
「!!!?」
恐る恐る眼を開けると、ククク、と口の端を上げて笑いをこらえる柊さんがいた。
「(…からかわれた!?)」
顔に、カーっと血が上っていくのが分かる。
「しゅ、趣味が悪いですよ、柊さん!」
「あなたがあんまりニヤニヤとだらしなく笑っていたもので、つい」
「はぁ…驚きました……まったく、冗談にしても度が過ぎていますよ」
デコピンされてしまったらしい額に手を当て、椅子にグッタリと腰を下ろした。
「俺に口説かれてみたくなりましたか」
「…結構です///」
「それにしても、あんなに可愛らしく怯えたりしたら、ソノ気がなくても襲われますよ。要さん?」
「!?」
……冗談なのか何なのか分かりにくいが、とにかく趣味が悪い上に意地悪な人というのは間違いないらしい。
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