「蓮、この一件では色々と力を貸してもらって……感謝している」

席につき、深々と頭を下げた柊さんに習って、私もペコリと頭を下げた。

「いや…俺の方こそ。長い間、東条院の家がしていたことに気付いてやれなくて、済まなかった」

苦しそうに、蓮さんが形のいい眉をひそめる。

「そんな、蓮さんは悪くないです!」

そんな表情を見ていられず、つい大きな声を出してしまった私に、蓮さんが表情を崩す。

「奏は、優しいんだな」

そして、テーブル越しに私の手を取り…

「さすが、俺が惚れた女だけの事はある」

「ええ!?」

「…蓮……」

柊さんの声が低く響き、蓮さんの手が、パシッとはたき落とされる。

隣を見れば、長い前髪の隙間から、刺すような視線が蓮さんに向けられていた。

「ハハ、分かった分かった」

冗談めかした笑い声の後…

ふと、柊さんを見る蓮さんの表情が、柔らかくなる。



「……その様子なら…振っ切れたみたいだな、姉さんの事」

「…ああ…奏様のお陰でな」

「よかった…姉さんは、きちんと今を幸せに生きている。お前だけが過去に囚われ続ける必要はない」

蓮さんの瞳が、柊さんをまっすぐに見据える。

「薫だって、自分の人生を歩いていいはずなんだ」

「…蓮さん……」

普段はおどけたような雰囲気を持つ蓮さんだけれど。

その内側に持つ優しさと強さに、どれだけ助けられただろう。

チラリと隣の柊さんを見上げると、

柊さんも同じ気持ちなのか、優しい微笑みを返してくれた。


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