君の隣は僕のもの


《裕次side》


 きっと、あまりに浮かれすぎていたんだと思うんだ。
 まさか、こんな初歩的なミスを犯すだなんて…。

「え?…あぁー!!」
「ど、どうしたんですか?」
 突然声を上げたからか、修一兄さんは目を丸くしてこちらを見ている。おそらく、結構驚いてる。
「え、あ、いや…」
「何?急にどうしたんだよ?」
 近くにいた雅弥もこっちを見ている。ついでに、ちょうど部屋に入ってきた要さんまでその声に驚き、慌ててこちらに来る始末。
「どうなされたんですか?裕次様?」
「えーっと…いや、その…」
 3人に見つめられた俺はただただ言葉を探している。

 まさか、こんなこと…言えないし…。

「一体何の話してたんだよ?」
 雅弥が不思議そうに聞いてくる。その質問に俺ではなく、修一兄さんが丁寧に答える。
「いや、奏さんの誕生日の…話をしていたんだが」
「あぁ、そういえば。お嬢様のお誕生日、もうすぐでございましたね」
 要さんが相槌を打つ。雅弥はまだ難しい顔をしていた。
「で…それが?なんであの声に繋がるんだ…?」
「確かに…。結構驚かれたような声でしたが」
「それは僕も…」
 修一兄さんが言い終わる頃には全員の目線が自分に集まっていた。
 俺は思わず立ち上がったその状態のまま。タイミングを逃してしまい椅子に座ることも叶わない。さすがにこの状況で何もなかったかのように椅子に座るには…ちょっと難しいだろう。
「え、いや、なんでもないよ。本当に」
 取り繕っても、もう後の祭り。口から出た言葉はさすがに返って来ない。
「全然なんでもないように見えない…ですが」
 修一兄さんはちょっと心配そうに尋ねる。何かまずいことでも言ったのだろうかと思っているのかもしれない。
「もしかして…兄貴さ」
 ふいに雅弥が口を開く。その言葉に少しだけギクリとした。
「奏の誕生日、忘れてたわけ?」
 その言葉にまさか!というような顔をした修一兄さんと要さんの顔が視界に入ってくる。
「そ、そんなわけない!奏ちゃんの誕生日はしっかり覚えていたさ!ただ…―!」
 ハッとなって急いで口を塞ぐ。
「ただ?ただなんだよ?」
 雅弥は少しいじわるそうな顔をして、しっかりとその言葉の続きを要求してきた。
「な、なんでもない!」

 その後、どうにか誤魔化してみたけれど…雅弥には最後の最後まで怪しいといった目で見られ続けた。
 修一兄さんや要さんは口には出さなかったものの…やはり気になったようで、俺と雅弥とのやり取りをずっと見ていた。

 でも。
 まさか、まさか言えるわけない…!! 

 奏ちゃん…奏と付き合っているってことですら、秘密にしているのに…。
 付き合い始めてから初めて迎える奏の誕生日に浮かれて、誕生日当日にバースデーパーティーを開くということを忘れていただなんて…!
 そして、2人でどうやって過ごそうかと考えていただなんて…!!

 そんなこと、言えるわけがない!


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