「よ、要するに、アレだよな…うん、全部用意してあるとは言っていたが…いや、しかし…うぅむ」

 ブツブツと独り言を呟き待っていると、思ったよりも軽くその扉は開かれた。

「お待ちしておりました。東条院蓮様」

 丁寧にお辞儀をするその人は、蓮の先輩でもある要だった。

「い、いや…」
「どうぞ、こちらへ…」

 まだ少し動揺している蓮をいつもの鉄壁の笑顔で、奥へ進めと催促する。
 それは有無を言わさぬ圧力というものがあって、蓮はさらに冷や汗をかいた。
 そして、思ったのだ。

(も、もしかしたら…大変な所へ来てしまったのではないだろうか…!?)

 丁寧にその扉をくぐれば、何度か見たことのある光景が広がっていた。
 と、そこへ…

「あ!蓮さん!いらっしゃいませ」
「お、おぉ、奏か。今日は招待ありがとう」
「ふふふ。蓮さんも大変な所へ来ちゃいましたね?」
「え!?」
「わかりますよ。だって、私だって恥ずかしいですもん」
「そ、そうか?」
「でもちょっと楽しみです」
「そうか…。しかし、突飛なことを考えるものだな、お前の父上は」
「ふふ、そうだね」

 いつもよりも少しだけ大人びたワンピースを着ている奏と話していても、蓮の表情のかたさは取れない。
 そんな2人の会話を要はにこにこしながら見ていた。

「それでは、蓮様。お部屋へご案内致します。お嬢様も、もうすぐお時間ですから。ご用意を」
「はぁい!じゃあ、また後でね、蓮さん!」
「お、おう!」
「では、こちらへ…」

 蓮は奏と別れると、大人しく要の後を着いていったのだった。


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