ガチャ。
小さく音を立てて開いた扉は一番近くの部屋のものだった。
「あ、御堂さん」
そして、それは…彼女の部屋。
自分を見つけるなり、ふわりと笑う彼女のその笑顔に反応して、胸の奥の方がきゅっと音を立てる。
「お嬢様、どうかなされましたか?こんなお時間に」
それをどこかごまかすように告げたその言葉は、どこか早口だったに違いない。
「えっと…御堂さんに用がありまして」
「…私に、ですか?」
今度はどうしたのだろうかと考える内に、その答えは見つかった。
彼女は少し頬を赤らめると、手に持っていたものをこちらに差し出す。
それはどこか見覚えのある…シャツだ。
「…あれ?このシャツは…」
「あ、そうです。御堂さんの」
「やはり…って、どうしてお嬢様が?」
そのシャツは、この間繕い物をすると言っていたメイドの一人に「申し訳ないけれど」と断りを入れて頼んだ…自分のシャツだった。
いつもなら自分でやるところなのだが…その時は仕事の関係で急いでいたために頼んでしまったのだ。
「へへ。ちょうど、メイドさんに頼んでる御堂さんを見掛けたから無理を言って貸してもらったの」
「は、はぁ…」
どうして、ご令嬢がわざわざそんなことを…。
「カフスのボタンが取れちゃったけれど、急なお仕事で急いで着替えて…で、頼んだんでしょう?ちょっとラッキーでした」
「ラッキー…ですか?」
ふわふわと笑いながら話を続ける彼女は、どこか楽しそうで。
そんな彼女を不思議そうにただただ見つめていた。
「いつも助けてもらったりしているから、何か御堂さんにお礼したいなって考えてたんです。だから、代わりに私がやろう!って思って」
あぁ、そうか。
彼女はこういう人だった。
終始屈託なく笑っているその瞳に惹かれることを知りながら。
どうして、それを止められないのか。
答えは簡単だ。
もう、止められないから。
「わざわざ、私などのために…ありがとうございました。奏様」
「いえ!こちらこそ、いつもありがとう。御堂さん」
きっと、これからも…彼女に、惹かれ続けるんだろう。
でも、それでも良いのかもしれない。
それは…自然なことだから。
「奏様、明日明後日あたり…きっと月が満月になりますよ」
「本当ですか!わぁ、綺麗なんだろうなぁ」
「月光浴に、行かれますか?」
「…行きたいです!楽しみにしてます」
ほらまた、あなたは笑うから。
私の大好きな、その笑みで。
―Fin―
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