彼女、奏様を想うようになってどれくらい経ったのだろうか。
あっという間に月日は経ち、気づけばどのご子息とも仲良くなられていた。
それも彼女の一つの魅力なのだろう。
だからこそ、私も惹かれていったのだから。
「奏様」
コンコンと部屋のドアをノックし、その名前を呼ぶ。
少し遠い場所から「はい」と一言返事が返ってきてから、ほんの数秒間があいたのち…
ドタンッ!
と大きな音が部屋から聞こえてきた。
「お嬢様!?」
慌ててドアノブに手を掛けると、自然とドアノブがひねられた。
「ごめんなさい…足、ひっかけちゃって」
きぃっと小さな音と共に開かれたドアの向こうに、頬を掻いた彼女が立っていた。
「お怪我は、ございませんか?」
「あ!だ、大丈夫です!ご心配お掛けしました」
苦笑いを浮かべながらそう言う彼女に、私は持ってきた糸を渡す。
「今度は、お気をつけ下さい。奏お嬢様?」
「はぁい。ありがとう、御堂さん」
今度は少しだけ頬を赤らめて小さく笑うと返事をした。
この方は、本当に色々な笑い方を知っている。
時々、そう感じるときがあった。
だからかもしれない。
最近、色々な人から言われるのだ。
『表情が柔らかくなった』と。
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