「御堂さーん!」
「奏お嬢様?どうなさいました?」
パタパタと廊下を走ってやってきたのは、少々お転婆な西園寺家のご令嬢。
何度か「廊下は走らないように」と注意をしたのだけれど、なかなかそれは直らない。
またそれはご子息の雅弥様も一緒で、いつになったら直るのかといつも悩んでいたりする。
「あの、黒い糸ありませんか?ふ、服のボタン取れちゃったんで直そうと思って」
掌には少し小さめのボタンが控えめにちょこんと乗っていた。
「そのようなことでしたら、私どもでやらせていただきます」
ふわりと笑顔を作り、彼女にそう告げるのだけれど…。
きっと彼女は首を縦には振らないだろう。
「い、いえ!自分でやれますから」
そう笑顔で言うと、首を横に振った。
ほら、ね。
西園寺奏という人は、そういう…方なのだ。
自分もわかっていてそう聞くのだけれど。
「かしこまりました。それでは、糸をご用意いたします。用意出来次第、お部屋にお持ちいたしますので」
「あ、ありがとうございます!」
一つ礼をすると、彼女はまたぱたぱたと廊下を小走りで走っていく。
「奏お嬢様」
「はい?」
「廊下は…」
「あ!ご、ごめんなさい!」
慌ててする謝罪の礼を見て、一つ溜め息をつく。
でも、そういう彼女が嫌いではなかった。
そう、むしろ…好きだった。
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